駅のベンチの贈り物

@SASAKII

駅のベンチの贈り物

いつもより一本早い電車に乗ろうと、駅のベンチに腰を下ろした。誰もいないはずなのに、隣に置かれた紙袋が目に入る。

 中を覗くと、小さなノートが一冊入っていた。表紙には「どうぞ自由に」と書かれている。


 何気なく開くと、知らない誰かの文字が並んでいた。

「今日、面接で失敗した。でも、このベンチで少し泣いたら楽になった」

「受験に落ちたけど、次は頑張る。ベンチさんありがとう」

「ここで待ち合わせして、告白して、うまくいきました!」


 ページをめくるごとに、人々の悩みや喜びが綴られている。そこには日記とも違う、ちょっとした秘密の共有のような温かさがあった。


 気づけば電車を一本見送っていた。ペンを取り出し、私はそっと書き込んだ。

「このノートを読んで、明日を楽しみにできました。ありがとう」


 紙袋に戻してベンチに置くと、ちょうど風が吹いて、ページがぱらりと揺れた。

 そのとき確かに、「よかったね」という小さな声が聞こえた気がした。


 電車に乗り込むと、胸の中に不思議なあたたかさが灯っていた。ほんの少しの偶然が、私の日常を柔らかく変えてくれたように思えた。

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