第9話 希望


「杉崎さん、すごく絵がうまいんですね! 最初っからこんなに描ける人、初めて見ました」

 高城さんは、私の絵を、無邪気な言葉で褒めてくれた。私が勇気を出して、地元の小さなアートギャラリーに飾らせてもらった海の絵を、休みの日に見てきてくれたのだ。

「まだまだ、これからですよ」

 兄のことも、本当は昔絵を描いていたことも、私は高城さんに打ち明けられなかった。でもきっといつか、絵を通して伝わるのではないかと思っている。

 それから数日後、休憩時間にスマホを見ていたら、SNSの通知が来ていた。だいたい、フォローしている企業の更新通知なのだが、今日は「いいねを送られました」と出ている。

 アカウントにログインして確認したら、

「サトシ」さんから、私の投稿した絵に「いいね」が送られていた。サトシさんの投稿記事はたった一つ、アイコンと同じ、牧場の絵だ。障がい者のアート展で見たポニーテールの少女が、背を向けて牛に草を食べさせている。

 私のメッセージは、届いたらしい。

 それを知っただけで、十分だった。

 使い切った青を買い足すために、今度の日曜、また「べに」に行こうと思った。          


               終

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