青い柿
藤泉都理
青い柿
「こ、これは、」
林の管理者である
林の中に奉られている祠の前で異常事態が発生したからだ。
「この渦は自然現象なんかじゃねえ」
祠を守護するように立派な姿で鎮座する柿の木からごっそりとなくなっていたのだ。
未だ熟していない青い柿が。
では淡蒔が毎日様子を見に来ては熟すのを楽しみにしていた青い柿はどこへ行ったのか。
「この渦は。この渦はっ! ミステリーサークルっじゃあああああっ!!!」
数多の青い柿は、祠の前の裸地に渦を描くように配置されていたのであった。
「いやいや。悪戯好きの誰かの仕業でしょうが」
淡蒔は慌てふためいて神社に駆け込んだ。
そこには幼馴染の祓い人である
祠はいつからここに奉られているのか、祠には何が祀られているのか分からなかった。
淡蒔の先祖の霊とも、この土地を守護していた神とも、この土地を穢していた悪霊とも、身分差の恋が叶わず打ちひしがれたこの土地の城の姫の霊とも、淡蒔の母から聞かされていた淡蒔。なんにせよ大切にしなければならないと言われた幼い頃から、そして大人になった今でも林の管理者として、林同様に祠も清掃補修お供えなど手をかけて見守っていたのである。
祠の頭上に実るので必要ないのではないかと思いながら、毎年柿が熟せばお供えしていたのである。
「本当に悪戯好きの人間の仕業なのか? 烏景」
「そろそろ防犯カメラを設置したらどうだ? 淡蒔。今は何事もないが、念の為に備えは必要だと思うよ私は。うん」
「ほ、本当に摩訶不思議現象じゃないのか?」
「ああ。うん。そうそう」
無精髭を撫でながら大きなあくびを出す烏景を胡乱な瞳で見ていた淡蒔。本当だなと念押しすると、そうだよと返されて一先ず引き下がった。
「なあ。烏景。俺はおまえを信じている。俺のこの篤い信頼を裏切ってくれるなよ」
「相変わらず暑苦しいねえ。淡蒔は。大丈夫だって。悪戯だから」
「………分かった。今からホームセンターに行って、防犯カメラを見て来る」
「もう写真は撮ってるのか?」
「今撮る」
「警察に連絡は?」
「してない。真っ先におまえに来てもらわないといけないと思ってな。ホームセンターに行く時に寄って言っておく」
「ああ」
スマホで写真を撮ってのち、淡蒔は来てくれて助かったと礼を述べると、ホームセンターの近くの和菓子屋で何か見繕って神社に持って行くと言ってこの場を後にした。
「………だめじゃないか。
烏景は裾から漆黒の扇を取り出すや否や勢いよく広げてのち、不敵な笑みを浮かべたのであった。
「これに懲りたら悪戯なんてするんじゃねえぞ。ガキども」
(2025.9.25)
青い柿 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます