第17話 再襲撃
「このまま襲いかかるよりは待ち構えて仕掛けたがいいか?」
ゼフィールさんはそう言った。虎次郎軍曹が首を横に振った。
「構いません。この程度なら休むに至りません」
「そうか。じゃあ突撃だ」
ゼフィールさんはそう言って鋭刃を抜いた。自らの顔に柄を掲げる。
「中隊、躍進! かかれ!」
「第三小隊、躍進! かかれ!」
ゼフィールさんの言葉に、虎次郎軍曹が唱和して走り出す。すぐに獣人たちが本気を出して走った。ゼフィールさんは苦笑いを浮かべた後、速度を落とした。
「ゼフィールさ……中尉は獲物を取らないのですか?」
「それが疲れてな。そもそも元気でもあいつらに追いつけるかどうか」
「なるほど。ずっと足踏みしていましたもんね」
「兵長はいいのかい?」
「一人くらいは中尉をお守りしないと、と、思いました!」
ゼフィールさんは笑って私の頭を撫でた。帽子がずれる。
「すまんすまん」
「なぜ謝るんです?」
「なぜだろうな。さておき。和むのも戦死者に悪い、戦況はどうだろう」
人間の謎ルールをゼフィールさんは口にした。耳の後ろに虫がついたような痒い話ではある。そういうのなしだったら、ゼフィールさんはもっといいのに。
しかし、それでは獣人が期待するゼフィールさんの役割からはずれる。やはり痒い。
意識を戦いに向ける。あちこちで血の匂いがする。さらには人間の怯えの匂いが充満していて、そこから察するに、味方はいいように人間を狩っているらしい。ふたたびの大勝利だと言ってもいいだろう。近年ではまったく聞かないような、人間相手での大勝利の連続だった。
もっとも、どんな獣人の群れも、一度や二度は人間に勝てるものだ。人間はここからが怖い。群れをなして逆襲してくる。
「追ってきた人間の群れは四〇〇ほど。一〇〇は狩ったと思います。今一〇一です」
「大戦果だな。敵は本隊合流を急ぎすぎていたか」
「歩いていましたよ!?」
「本隊はこれより遅いから、それで十分なはずだったんだろう。余力を残しておきたかったというのもある。まあそれで死んだら話にならんわけだが」
ゼフィールさんの言う通りだ。敵は今頃になって走って逃げ始めている。
「深追いするなと伝えてくれ」
「分かりました」
私は遠吠えをした。すぐに返事が方々から返ってきた。さすがゼフィールさん、人間の逆襲のことも分かっているのだろう。
「すぐに引き上げてくるそうです。一二〇は狩りました」
「さっきの戦いよりすごい戦果じゃないか」
「さっきは人間にあわせていましたから」
「なるほど。まあ要するに、使い方次第か」
ゼフィールさんはそんなことを言っている。自分が狩っていなくても楽しそうではある。変な人間だ。
戻ってきた獣人たちを前にしても、ゼフィールさんは上機嫌のままだった。私も嬉しい。みんなも嬉しそうだ。ゼフィールさんの指示のままに殺していったら、ゼフィールさんはもっと喜ぶだろうか。さらには人間もある程度間引きされて世界の均衡は保たれる。良いことづくめだ。
「良くやってくれた」
匂いからもわかる、労りの心。私達は微笑んだ。尻尾を振っている同族も多い。
「だが戦いはこれからだ。とはいえ、少し休もう。俺は君たちのように戦闘をしていないのに疲れた」
人間は時々嘘をつく。ゼフィールさんの発言も半分は嘘。まあでも、いい。ゼフィールさんは私達を休ませたいようだ。
「味方の戦死は?」
虎次郎軍曹が即座に口を開いた。
「二人です。深追いして銃でやられました」
「もう少し早く言っておくべきだったか」
「中尉のせいではありませんよ。訓練では散々、深追いするなと言っていたんですし」
「そうなんだがな」
時刻はお昼ごろ。私達は風よけで盆地のようになっている場所を選んで休んだ。中尉はなにはなくとも食料をたくさん手配してくれていた。人間を食べればいいだけの気もするが、例によって人間の謎ルールでダメらしい。
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