偽装された異世界召喚

石畑サン輔

第0話「仮想・前」


 オーバーキャスター。


 長くて呼びづらい、名前らしからぬ名前だ。

 変更不可が災いしたせいで、これが名前なのだ。

 略すとダサくなるのでフルネームが好ましい。


 顔はあどけなさがあるが、さわやかな印象。

 作られたアバターなんだ。自分の顔面に感想を言っても恥ずかしくはないはずだ。

 

 特技は剣術と、敵の攻撃を読むこと。

 回避とかカウンターが好き。


 少しでもダメージを受けると気になってしまう性格で――。


「大丈夫だ、俺は強い」


 自己暗示。心を落ち着かせる試みだ。


 サラサラの白髪に、白を基調とした装備。

 白銀に統一された姿は、暗い中でもよく映えるだろう。

 

 あとは、はためく破れかけのマント。

 我ながらそのアンバランスさが良い。


「暗いな」


 ここは灰にまみれた漆黒の城、その最上層だ。

 

 空を見上げると、そこには果てしない暗闇が広がっている。

 おまけにこの黒い橋、少し視界が悪い。

 

 周りに人の気配はない。

 静寂の中をただ歩いていく。


「ん?」

 

 そんな中、ピコンという電子音が鳴った。


「メニューウィンドウ、オープン」


 チャット欄を見ると、数件の通知がある。

 途中で脱落してしまった仲間たちからだ。

 

『最後がまさか、お前1人でになるとは、すまん』

『でもさ、オバキャスならやれる気がしない? これまでにもこーゆーのあったしさ、できるって!』

『ソロ攻略がんば』

『これがラストチャンスだろうね。プレッシャーかけるつもりはないけどさ、よろしく頼むよオバキャスさん』


 お前たちに言われるまでもない。

 

 オバキャスって略すんじゃない。

 とツッコミたいところだが、ここは堪えての――。


『任せろ』


 これがいいだろう。

 簡潔に、その一言だけを残してチャットを閉じた。

 

 たとえ一人だとしても、負ける気なんてない。

 ここにたどり着くまで相当な時間がかかったのだ。


 このゲームのサービス終了まで、あと一時間。

 もう一度挑戦する時間も……おそらくない。


「これがラストチャンス、か。しかもソロとはな」


 だからこそ無駄にしたくない。

 今までの苦労を噛みしめて、最後の戦場へ。

 

 橋の先端まで辿りついた。

 ここで一度立ち止まる。


「あれ、だな」


 目を細めて橋の向こうを見た。

 

 巨大な円形の広間だ。

 ただ黒く、なめらかで平らな床が浮かんでいる。

 

 その中央に置かれた玉座に目がいった。

 やたら図体のデカい、鎧を身につけたなにかが座っている。


「ここに足を踏み入れたら、アレが動き出すのか? 事前準備ができるだけ優しいね」


 慣れた手つきでメニューウィンドウを動かす。

 

 多くのバフスキルを、順に素早く発動させていく。

 パワーにスピード、体力上限アップに加えて、感覚サポートや防御力も大幅強化だ。


 力が湧き上がるこの感覚は毎度癖になる。

 体の限界のタガを1つずつ外していく感じだ。

 

「もう最後なんだ、大盤振る舞いといこう」


 さらにダメ押しする。

 

 使い切りのレアアイテムを消費した。

 勿体無くて使い所を見失っていた。だが、出し惜しみはなし。


 これで、全てのステータスが大幅に上昇した。

 

 今までにないバフ量だ。

 アドレナリンが溢れ出るのがわかるまでに。

 

 準備は完了した。


 アイテムのバフ継続時間は短い、もう始めなくては。


「――いける」


 橋と広間の境目、その先へ一歩踏み出した。

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