亮介は、古い文献や土地の伝承を必死で調べ始めた。避難所にいた郷土史家や、大学の図書館の被災を免れた資料室にまで足を運んだ。そして、ついに一つの可能性を見つけ出す。それは、神を大地に縛り付けるのではなく、人々の「祈り」と「創造」の力で、神の力を安定させ、新たな拠り所（よりしろ）を築くという古の儀式だった。

「新しい社を建てるんだ。君が大地に還る代わりに、人々が君を想い、感謝を捧げる場所を」。亮介の計画に、千歳は戸惑った。「そんなこと…」。だが、彼の瞳に宿る強い光に、彼女の心は揺れた。亮介は避難所の人々に協力を呼びかけた。最初は半信半疑だった人々も、千歳がこれまで示してきた献身と、亮介の真剣な訴えに心を動かされ、一人、また一人と力を貸し始めた。

土地が最も不安定になるという満月の夜、最後の大きな揺れが彼らを襲った。千歳の体は光に包まれ、消えかかっている。人々が不安に叫ぶ中、亮介は叫んだ。「今こそ、未来を創る時だ！」。彼は設計図を広げ、人々は瓦礫の中から資材を運び、祈りを込めて土台を築き始めた。それは、ただの建物ではなかった。人々の希望と感謝、そして亮介の千歳への愛が込められた、魂の建築だった。夜明け前、小さな社が姿を現した時、大地の揺れは奇跡のように静まり、千歳の体は確かな輪郭を取り戻していた。彼女は涙を浮かべ、亮介を見つめた。「私はもう、人柱じゃない…」。