時を超えて、結ばれる心
@kenji06
第一章:灰色の日常と亀裂
橘亮介の日常は、コンクリートの壁のように無機質で、色褪せていた。38歳、建築家。かつては、人の営みを温かく包み込むような空間を創ることを夢見ていた。だが、現実はクライアントの予算と、流行という名の無個性なデザインの繰り返し。製図台に向かう時間は、創造の喜びではなく、ただの労働に成り下がっていた。数年前に愛する人を突然の事故で失って以来、彼の心の世界は、骨組みだけが残された廃墟のようだった。
その日も、亮介は高層マンションの窓から、灰色の空とひしめき合うビル群をぼんやりと眺めていた。設計中の商業施設は、またしても魂のないガラスと鉄の箱だ。ため息が、乾いた空気に溶けて消える。その時だった。足元から突き上げるような、暴力的な衝撃。経験したことのない揺れが、彼の体を、そしてこの巨大な都市そのものを激しく揺さぶった。
悲鳴とガラスの割れる音。本棚が倒れ、図面が床に散乱する。亮介は必死で机の下に潜り込んだ。長い、永遠にも感じられる揺れが収まった時、窓の外の風景は一変していた。黒煙が立ち上り、遠くでサイレンが鳴り響いている。彼の灰色の日常に、巨大な亀裂が入った瞬間だった。
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