第24話 眩しいだけの存在。
先生との初めての土日はあっという間に終わった。
日曜日。一日中えっちなことをしていたかと言えばそうでもない。いや、時折したいと思ったがその都度、先生はハムレットの世界観を教えてくれたり、受験勉強の手伝いをしてくれた。先生が無防備で傍にいるので俺はすぐ先生が欲しくなる。触りたくなるし、抱きしめたくもなる。なるだけで実行は出来ない。基本根性なしだ。
そんな夢のような日曜日が過ぎ去り、渋々の渋々で自宅に帰った。
自宅では寝るだけにしたかったので、先生の家で食事も風呂も終えていた。ハムレットの世界観は先生のご指導でぼんやりとは理解出来つつある。
平日に先生の家に行くわけにはいかないので、俺も先生みたいに図書館で本を借りることにした。
最近ではスマホで予約し、目的の本が最寄りの図書館でなくても市内の他の図書館から移送してくれる。俺の住む地域には海洋文化館なる交流館がある。そこには学校の図書室くらいの図書館がある。蔵書は少ないが市内の別の図書館から取り寄せが出来るので便利だ。今日移送されるので帰りにでも寄ろう。
そして今朝からいつものぼっち通学が変更された。
「お兄さま、ごきげんようです」
制服のスカートの両端を掴み、お辞儀する。おかしい海野さんのオフィーリアの演技が日をまたいで有効だ。
まさか一生、お貴族さまみたいな話し方じゃないだろうな。それなら俺はそれなりに責任がある。とりあえず、その件は知らん顔しよう。エナドリの副作用かも知れんし。
「海野さん、学校でお兄さま呼びはダメだからな」
「はい、それは存じ上げておりますよ、心配性なんですから、お兄さまは」
あぁ……なんかダメそうな予感しかしない。しかし、敢えて指摘しなくてもいいが、俺と一緒に行動するのは下着を着替える下校時だけでいいんだが。
「やっぱ下着、着替える前にシャワーとか浴びときたいよな?」
電車に乗りほどよい振動の中、俺は世間話のように話を振った。
「あっ、えっと……ご迷惑なら――その……学校で脱ぎましょうか」
いや下校するときノーパン、ノーブラってどんだけえっちな娘なんだ。いや、そのプレーにはいささか、興味はある……なんかえっちな命令してるエロ漫画みたいだ。それは――またの機会に取っておこう。
「脱いですぐの下着を俺に渡してもいいのか」
「それは、その……大丈夫です。でも、着替えるために毎日、家まで来てもらうのは」
「それはいい。俺の部屋で着替えさせるわけにはいかない。俺が盗撮してたらどーすうんだ?」
盗撮は冗談として、我が家には看守の妹がいる。
「と、盗撮⁉ それはむしろ光栄かと」
いや、ダメだろ。見られるのは舞台の上で服着てる時だけにしてくれ。
「まぁ、やりながら不具合は修正していこう」
「はい、でも…」
「なに?」
「はい、今日はピンクの刺繍がある上下でお願いします」
「えっ……」
なんでもいいんじゃないの? オーダー制? いや、そんなことしたら、俺がっつり下着触るんだが。もう確実に変な気になりそうなんだけど……さすがにそれだけはダメだ。海野さんのお義父さんと同じことしてる場合じゃない。
特に考えもなく登校した。会話はそれなりにある。オフィーリア中なので。なので油断していた。俺と海野さんの組み合わせは正直レアだ。
校門が近づくにつれ視線を感じる。でもあれか。これから文化祭での脚本の件や下校時のこともある。一緒に行動してるのはすぐに広まるだろう。先生が「見ててあげて」と言ってくれてるのだからいい。特に問題ない。そういう答えに至った時その声が背後から発せられた。
「朝…山県。それと…海野…さん。珍しい組み合わせ」
スッとした体形。
背は俺とたいして変わらない。黒髪ロングを編み込んだ髪。切れ長の涼しげな目元。間違いない、
女子剣道部部長であり、俺の数少ない幼馴染。コイツとは幼稚園から高校までずっと一緒、通っていた剣道道場も一緒。何を隠そう見上げ坂高校入学からしばらくは、このやる気ハーフ・アンド・ハーフ男子の俺も剣道部だった。
「千……香坂か。あぁ、そうだな。今度海野さんがする文化祭の出し物の手伝いをすることになった。それで打ち合わせ兼ねて」
「文化祭……まだ2カ月くらいない? まぁいいけど。海野さん、ごめんなさい。少し山県と話がある、借りたいんだけど」
「へっ? ど、ど、どうぞ、お、お納めください、です! では」
なんで急に通常モードになってんだ。海野さんは俺の連絡先知ってるから、なんかあったら連絡くるだろ。
そんな事を考えていたら、駆け出したはずの海野さんがすぐに戻って来てちょいちょいとする。耳を貸して、みたいな感じだ。俺は少しかがみ海野さんが話しやすい高さにした。
(あの! お兄さまのおかげで、使用済みの下着、持ち歩かないで済みました。すっごく、気が楽です、その……チュウ)
ちなみにこのチュウってのは、頬に口づけをしたとかじゃなく、口づけ風に声で言っただけだ。それだけなのに少しときめいてしまった。そんな海野さんを見送る俺に、香坂千波が口を開く。
「朝稀、ずいぶん仲いいみたいね。私はてっきり、吹奏楽の
「千波、なにがどう、てっきり佐々木なんだ?」
「そのまんま、いま一緒にいる女子。それより聞いたけど――おじさん相変わらずなの? 平気?」
香坂千波とウチは近所だ。そんなわけで父親が酒乱なのは周知の事実。隠したくても隠せない。酒を飲んでない時は外面モンスターなんだが、少しでも入るとダメだ。
「今更、理系大学受けろってさ、あと妹の受験勉強も見ろって」
「朝稀も受験なのに⁉ バイトもしなきゃでしょ? それってもう虐待……ごめん。あのね、お母さん心配してるの、ごはん食べれてる? 昔みたいにウチ来なよ、妹たちもさ、喜ぶし私だって――」
「千波、ありがとな。そういや大会、近いんだろ? 高校最後の大会だ。応援してる、ガンバレ」
「あっ、うん。ありがと」
俺は無理やり千波の話の腰を折った。近所で幼馴染に迷惑は掛けられない。それに俺は千波に引け目を感じていた。俺にはもう眩しいだけの存在なのだ。
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