第一話 始まりの季節


あたしの名前は、葵。


あたしたちが小学六年生になって、少し時間が経った頃。

春から初夏へ変わっていく空気はやわらかくて、でもどこかそわそわしてた。


朝の風はほんのり暖かくて、髪をなびかせるたびに思う。

――もうすぐ、夏が来るんだな。


「おーい、葵!」


遠くから声がして、振り返る。

ランドセルを背負った悠人が、少し息を弾ませながら走ってきた。


「なぁ、一緒に学校行こうぜ」


悠人は、あたしの幼なじみ。

幼稚園のころからずっと同じクラスの男の子だ。


いつも自然体で、あたしにとっては――

そこにいるだけで安心できる、空気みたいな存在。


「うん、待ってた!」


思わず笑いながらそう言うと、悠人は口の端をゆるく上げて、

少し照れたようにうなずいた。


「……じゃ、行くか」


その言い方が、なんだか悠人らしくて。

あたしはにやっとして、うなずき返した。


二人で並んで歩き出す。

朝の光が道いっぱいに広がって、長く伸びた影が足もとを追いかける。


影を踏みながら、他愛もない話をした。

昨日のテレビのこと、給食のメニュー、どうでもいいことばかり。

でも、そうやって話しているだけで――なんだか楽しかった。


少しずつ変わっていく季節の中で、

あたしたちの関係も、どこか少しずつ変わり始めてる気がした。









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