第2話
「これからこの森を案内するわたしの名前はハルと言います!ハルちゃんって呼んで…って、ちょっと!?自己紹介ぐらいしませんか!?」
「時間の無駄だ。さっさと行くぞ」
「ええ〜?」
夜になってシルバーウルフを探すべく、村の奥にある迷いの森にやって来た。
合流すると騎士さまは案内役のわたしを追い越してさっさと森に入って行くから慌てて追いかけ、村の奥にある迷いの森に足を踏み入れた。
「でも名前ぐらいは教えてくださいよ!騎士さまのお名前は?」
「お前みたいなちんちくりんに教える名前は持ち合わせてない」
「なんそれひど…」
脇目も振らず森の奥へと進んでいく騎士さまのひん曲がった性格に呆れて唇尖らせてみた。
本当はいっぱい言い返したかったけど、それよりも別に気になることがある。
「騎士さまはお仲間が居ないのですか?シルバーウルフは雷の魔法を使う魔獣だから、相当強いんですよ?…って、ギルドの人達が言ってましたけど…」
「俺1人で十分だ」
「そりゃあ、王都の騎士はとってもお強いって聞きますけど…王都の騎士って個人で行動するものなんですか?」
「うるさい、黙れ」
黙ってどうやって道案内するのさ、まったく…
これ以上喋れば騎士さまの手にある剣がわたしに向きそうだったからぐっと堪えて、内心で舌を出すまでにしておこう。
これ以上喋ると怒られるから、後を追いながら騎士さまのことを観察しなが森の中を歩いていく。
髪色は黒で短くて癖っ毛。瞳は暗っぽい緑色。
顔立ちは、酒場に来ていた女性客が口々に『美しい』だの『神が創った芸術品』だの『王都の華』だのって褒めそやすような、簡単に言えばイケメンさん。
…のくせに、性格悪いから目つきは人1人殺しててもおかしくない凶悪なもので、イケメンなんて言葉は絶対に似合わない。
「おい、お前のその口は飾りか?さっさとシルバーウルフが目撃された場所に案内しろ」
「自分が黙れって言ったじゃん…」
「何か言ったか?」
「滅相もない!あっちの池のほとりによく居るのを村の人も言ってましたよ!行きましょう騎士さま!」
「村の奴らが?嫌な予感しかしないな…おい、気安く触るな。…くそ、力強いな」
これ以上機嫌が悪くならないように慌てて騎士さまの手を握って目的地まで案内してあげる。
「お!酒場の嬢ちゃんじゃねぇか!」
「なんだぁ?王都の騎士サマも来たのかよ」
「おーハルちゃんおつかれ〜」
「こんばんは!ほら、騎士さま。昼間の冒険者さんやギルドの皆さん勢揃いですよ!これなら安心ですね!」
「安心じゃないっ!なんなんだ?この観光名所じみた大所帯は!?」
池のほとりまで来ると、シルバーウルフを討伐しようと志す多くの冒険者やギルドの人達で大賑わいしていた。
わたしの手を力尽くで振り解いた騎士さまが大きな声を出すから、びっくりして青筋浮かべた端正な顔を呆気にとられて眺めてしまう。
そんなわたしに声を荒げた騎士さまは、池のほとりに点在する露店を指差し更に捲し立てる。
「それになんだアレは!?ここは迷いの森じゃないのか?なんで露店なんかあるんだ!?」
「いや〜シルバーウルフ討伐の為に村に訪れた人達は夜は酒場じゃなくてこの森に来てしまうので、商売根性モリモリな村の人達が夜はここで小銭稼ごうってなったらしいんですよ〜!」
かく言うわたしも、ガイドなんかしちゃってるし。
「ここの露店いいですよ!ちゃんと薬草とか、高いですけどポーションも売っているので実用的なんです!」
「こっちに来いッ!!」
「うげ?!」
話してる途中なのに文字通り首根っこを掴まれ、人々で賑わう池のほとりから離れた場所に運ばれ、そのまま木の幹に投げつけられた。
したたかに打ちつけた背中と後頭部の痛みに半泣きになっていると、首元に騎士さまが剣を突きつけてくるから痛いのなんか吹っ飛んで、『ヒエ』なんてまぬけな声がでていく。
「シルバーウルフは、この村にもういないのか?」
「あ…えっと……それは………」
「お前が喋れるのは『はい』か『いいえ』だ」
首の皮膚に剣先がほんの少し食い込んで、ピリッとした痛みで少し切れたことに気づくけれど、それ以上に騎士さまの静かだけど煮えたぎるような怒りを目の前にして痛みを感じてる暇なんか無くなる。
「います…ここに。シルバーウルフはいます…!」
騎士さまがなんでこんなに必死になっているか分からない。
この村に来てるシルバーウルフ討伐を意気込む人達はみんな腕試しや懸賞金などを目当てにしてるけど、シルバーウルフを倒すことにここまで真剣になってる人は初めて見た。
だから嘘は言わない。
しっかりと彼の深い緑色の瞳を見つめてハッキリと伝える。
「ならなんでシルバーウルフの縄張りにこんなに人間がいるんだ!?こんなお祭り騒ぎでいれば大体の魔獣に喰われるか逃げられる筈だ!」
「賑やかなのが好きなので!」
「いい加減にしろっ!!俺はこんなところで油売ってる場合じゃない!シルバーウルフがいる所に案内しろ!」
「ですから、ちゃんとここに居ますって!」
さすがにこのままだと怒り狂って喉元を掻っ捌かれるかもしれないから、剣の柄を持つ騎士さまの手の上から掴んで押し返す。
「もういい!お前みたいなポンコツを雇った俺が馬鹿だった。他を当たる!」
「ちょっとそれ言い過ぎじゃないですか!?そんなんだから騎士さまのお仲間がいないんですよ!お友達いないんでしょ?!」
「黙れちんちくりん!さっさと放せ!」
「ひどいっ!?訂正してください!そうじゃなければ絶対に放しませんから!!」
「俺に命令するな!お前が放せ!!」
片方の手でわたしの顔面を突っぱねてくる騎士さまの襟元を掴んでやったら、今度は足を踏んでこようとするから回避して逆に踏み返してやろうと2人で地団駄踏みまくるから、なんか変なタップダンス踊ってるみたいになる。
「お前じゃないし、ちんちくりんなんかじゃない!!わたしにはハルっていう名前があるんです!!この性格ブサイクアホ騎士!」
「シェルフリンツ・アレクサンドライトだっ!!礼を尽くせ!この国の王を父に持つ男で、この国の第二王子だ!その男の胸ぐら掴んでいいと思っているのか!?無礼千万!万死に値するぞ!!」
「知るかっ!!」
何が王子だ!こんなドブ水みたいな性格の王子様が居てたまるもんですか!
ギャーギャー騒いで挙げ句、引っ掻いたり引っ張ったりの応酬をしていると池のほとりからわたし達が騒ぐ声よりも大きな声がこの空気を劈いた。
「シルバーウルフが出たぞーーー!!!!」
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