いぬころと石ころは今日も仲がよろしい!

おーでぃなり

第1話

1




「だ〜か〜らぁ〜!本当に居たんだよ!!噂の魔獣が!!」


 真昼間の酒場で酔っぱらった冒険者らしい屈強そうな男が大声でそんなことを言い出すから、周りの人の視線は周りの視線はその人へと集まる。


「ああ…王都から討伐依頼が出てるっていうシルバーウルフの事だろ?」

「馬鹿野郎!あんなのシルバーウルフなんかじゃねえよ!デカさはこのしみったれた酒場の天井なんかよりもずっとずっとデカかったんだぜ!!」


 男は手に持っていたエールのグラスを掲げながらその大きさを表現しようとするけど、そこに居た誰もが信じようとはせず冗談だと笑いだす。


「おいおい!シルバーウルフがそんなにデカイわけねぇだろう?」

「だから、ただのシルバーウルフじゃねえって言ってんだろうが!耳ついてんのか!?このタコ!!」

「ビビって話盛ってんじゃねえよ!」

「盛ってねえよ!!クソッ、こんなヤツら相手にしてたら酔いも醒めちまうぜ。おい!そこの嬢ちゃん、エール追加だ!!」

「はいはーい!少々お待ちくださ〜い!」


 男がエールの追加を頼んだのは、小柄で溌剌としためちゃくちゃ可愛らしいこの酒場の看板娘であるわたし、ハルに向けて。


「おい、そこのチビ!こっちにもエールの追加だ」


 偶にこういうムカつくヤツもいるけど、お金落としてくれるんだからもちろん笑顔で接客。


「はーい!なんだか偉そうな騎士さんにエール追加でーす!」

「アンタねぇ、ありゃ王都の騎士様だよ。ぶっ殺されるよ」

「大丈夫です!わたしこう見えて強いんですから!」


 心配してくれる酒場の女店主のジーナさんに、負けじと力こぶを見せてにんまり笑ってみせると、呆れた風にため息をついていた。


「それにしても今日も大盛況ですね〜!昼間なのにこんなにお客さんでいっぱい!」

「そうね、噂のシルバーウルフさまさまね」


 追加注文分のオーダーを伝票に書いてからカウンターに頬杖着いてお店の中を見渡すと、そこには冒険者や騎士や賞金稼ぎらしい輩…お客様達で満席状態。

 

 みんなこの村の奥にある深い森に出没したシルバーウルフっていう魔獣の討伐に来てるらしい。

噂が王都にも広がって討伐依頼が出されて、近くのギルドや遠方のギルドから冒険者達が訪れ、シルバーウルフを倒そうって試みてるらしいけど、未だ誰も倒すことはできず懸賞金ばかりが増え、挑戦者もそれに比例して増えている。

 おかげで村の宿屋や飲食店やらにお客さんが増え、村が潤っているから、シルバーウルフ効果は絶大だ。


「わたしが来た頃は暇だったのに、こんなに忙しいなんて聞いてないですよぉ〜」

「文句あるならシルバーウルフに言いな!ほら、エールの追加持って行ってちょうだい!」

「はぁい」


 ジーナさんに渡されたエールを順番に運んで、最後にさっきの偉そうな騎士の机に置いてひと段落ついたから休憩入ろうかな、なんて考えてたら呼び止められる。


「おいチビ」

「ぐっ…、チビはいくらなんでも言い過ぎじゃないですか?150センチはありますけど!!」

「チビだろうが、そなことはどうでもいい。お前はシルバーウルフを見た事あるか?」


 人にモノ聞く態度じゃないでしょ!?なんなのその聞き方!!…なんて王都の騎士さまに言えるわけないから適当に嘘言って逃げよ。

 愛想笑いを浮かべて逃げようとしたその時、机の上に金貨が2枚置かれるから騎士さまの目の前の椅子に腰掛ける。


「わたしはシルバーウルフは見た事ないです!」

「チッ、使えねえな…」

「待って!待って!待ってください騎士さま!出没場所は知ってます!!」


 机の上に置かれた金貨を下げようとするから慌てて引き留めたら、なんとか関心を掴めたらしく金貨はまだ机に留められてホッと胸を撫で下ろすけど、胡散臭そうにわたしを睨む騎士さまの視線が痛い。


「おっほん!もしよろしければご案内しましょう!」

「この村の奥にある森に出没することは分かってる。案内なんぞ要らん」

「んもぉ騎士さまったら短気は損機ですよ!あの森はかなり広いですし入り組んでいるので村の者じゃないと迷子になっちゃいますし、その中で闇雲に探すよりは効率的です!」

「……」


 わたしから視線を外しながらも効率やらなんやら色々と考えてらっしゃる騎士さまは、エールをひと口飲んだ後にまたわたしをジロリと睨んだ。


「わかった。今夜、夜の刻の鐘が鳴る頃に森に来い」

「えっと、案内料としまして…」

「卑しいチビだな」

「なんとでも!金貨10枚ぐらいでどうでしょうか?」

「他を当たる」

「あー!!ごめんなさいごめんなさい!5枚で許してあげるから!!」

「なんでお前が上からなんだよ…」


 立ち上がって何処かに行こうとする騎士さまのマントを掴んで譲歩してあげたら、これまた盛大な舌打ちされる。


「わかった、チビ。お前を雇ってやる」

「お任せください!なんたってわたし、村から森のツアーガイドを任されちゃっているんですから!それで代金はまえばら…」

「代金は金貨10枚だ。だが…シルバーウルフを見つけられなかった時は代金の支払いは無い。いいな」

「じゅう!?本当に?」

「ああ、シルバーウルフを見つけられたらの話だからな」

「わあ!お任せください!必ずシルバーウルフに会わせてあげちゃいますよ!!」


お金…じゃなかった、騎士さまの誠実な気持ちにわたしも応えなきゃ失礼になっちゃうから、二つ返事で了承すれば、騎士さまはフンッて鼻で嗤ってからエールを煽って用済みだと言わんばかりに手を振ってわたしのことをあしらった。


 なんだこいつほんと性格悪いな。


わたしだってこれ以上こんな性格悪い奴とお喋りする暇なんかないから、独り呑んだくれる騎士さまをそのままにして仕事に戻る事に。


途中何回か、前金とか手数料とかの話を持ちかけたけど機嫌悪くなって、依頼自体無くなりそうだったから諦める事にして、今夜のツアーガイドに全振りする事にした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る