第12話:呪いの真相と孤独な心

 気まずい沈黙が、狭い研究室に重くのしかかる。

 壁に追い詰められたまま、エリアスはヴィクターの苦しげな表情から目が離せなかった。何が、彼をここまで駆り立てるのだろう。

 しばらくして、激情の嵐が少しだけ落ち着いたのか、ヴィクターはエリアスの肩から力を抜き、ぽつり、ぽつりと自身の過去を語り始めた。

「……俺は、敵国との和平の儀で、その国の王女から求婚された」

 それは、エリアスが初めて聞く彼の過去だった。

「だが、断った。俺に、人を愛する感情はない。政略のためだけに、偽りの愛を誓うことはできなかった」

 ヴィクターの声は、いつものように淡々としていたが、その奥には深い諦めがにじんでいた。

「逆上した王女は、国で最も腕利きの呪術師を雇った。そして、俺に呪いをかけたんだ」

 そこでヴィクターは一度言葉を切り、自らを嘲るように小さく息を吐いた。

「『愛を知ることも、愛されることもなく、永遠の孤独の中で果てる呪い』……それが、俺にかけられた呪いだ」

 感情を失ったのは、そのあまりに強力で悪質な呪いがもたらした副作用に過ぎなかったのだと、ヴィクターは静かに告白した。

 彼の言葉は、エリアスの胸に重く突き刺さった。愛を知ることも、愛されることも許されない。それは、生きながらにして心を殺されることに等しい。彼が背負ってきた孤独は、エリアスの想像をはるかに超える、計り知れないものだったのだ。

 だからこそ、彼は渇望するのかもしれない。ポーションによってもたらされる、偽りかもしれない温もりを。そして、その温もりを与えてくれる唯一の存在である、自分自身を。

 彼の強引な行動の根底にある、深い孤独と絶望を知った時、エリアスの中にあった恐怖や戸惑いは、静かに消えていった。代わりに、彼をこの苦しみから救いたいという強い想いが湧き上がってくる。

 エリアスはそっと手を伸ばし、ヴィクターの硬い鎧に覆われた腕に触れた。

「……ヴィクター」

 名前を呼ぶと、彼はハッとしたように顔を上げた。そのサファイアの瞳が、不安げに揺れている。

 エリアスは、精一杯の優しい笑顔を向けた。

「話してくれて、ありがとう。あなたの苦しみが、少しだけ分かった気がする」

 そして、エリアスは強い決意を込めて、真っすぐにヴィクターの瞳を見つめ返した。

「俺が、あなたの呪いを解いてみせる。必ず。だから、もう一人で苦しまないで」

 その言葉は、呪いにむしばまれたヴィクターの心に、一筋の光のように差し込んだ。目の前の錬金術師は、自分の全てを受け入れ、救うと言ってくれている。

 強引な自分を許し、温かい眼差しを向けてくれるエリアスを前に、ヴィクターはただ立ち尽くすことしかできなかった。しかし、彼の心の中では、エリアスという存在が、もはや何にも代えがたい、唯一無二のものであると、はっきりと刻みつけられたのだった。

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