没落お嬢様、転落中

パルラコ

11件目のレストランはデミグラスソースハンバーグが美味しいらしい

家が没落しましたの。

納税額を不正に繰り上げていたりだとか、

数々の腐敗が原因の、自業自得でしたわ。



「お母様!宝石をいい加減お売りになられて!

 お父様も!骨董品なんてお売りになってちょうだい!」

「だ、だがしかしなエプナ、これは世界で唯一の品で」

「そうよエプナ!大体わたくし達に楯突くなんて…」

あぁもうこの人達は!

私はボロボロの扇を握りしめ、二人を冷たく見据える。

「…不正した両親の為に私が見を粉にして働いているのを

 知ったら、世間はどう思うかしら」

まぁ、どうとも思わないでしょうけれど。

ただ、世間体を気にする両親は妄想を膨らませ

勝手に顔を青くさせる。

「っ、そ、それは………ね、ねぇ旦那様!

 あなたの壺くらい売ってちょうだいよ!」

「何だと!?大体お前のドレスや宝石だって__」

性懲りも無く、言い争いをする二人を横目に

私は明日の予算をどうするか考えていた。


数日前。

国の税務署により、我が家の悪事は白日の元に晒された。

それは私も知らない事で…だけど知らないからと言って

逃げようとは思わなかった。

意味のないなけなしの貴族のプライドと矜恃が、

私をその場に留まらせた。

王は私達に一年の猶予と言う慈悲をくださったから、

使用人を全て解雇し、貴族街の小さな家に引越し

何とか毎日限られた予算をやりくりして生きている。

一年、それまでに平民になる為の準備をしなければ

ならない。

二人は良くも悪くも貴族だから、一から働くのは

難しいだろう。

でも、いつまでも私を頼られては困るのだ。

せめて、二人が多少なりと生きていけるお金を

残して…いつでも消えられるようにしないと。

だから今日も今日とて、私は長期で働ける場所を

探しているのだけれど…。


「すまないが…採用は無理だ」

寡黙そうな男性が、申し訳なさそうな顔と声で言う。

今日は勇気を出して、少し遠いレストランの

ウエイトレスのアルバイトに応募してみた。

でも、やっぱり。

「…そう、ですか」

「短期なら、採用できるんだが…」

「…いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

軽く頭を下げ、私はレストランの裏口から出る。

これで11件目…。

多少覚悟はしていたものの、流石に気が滅入ってしまうわね。

私の経歴の少なさや能力の低さは、なんとかして

埋めなければとは思っている。

それでなくとも、労働組合の端っこにある

日払いのアルバイトしかできないし…。

…あーあ、何もかも投げ出してしまいたい!

けれどできない、中途半端な自分に嫌気が差す。


両親は、酒を飲んで寝てしまったようだ。

呑気に寝ていらっしゃる姿を見てしまい、

不満をぶちまけてしまいそうな、嫌な気持ちになる。

…洗濯をしなくちゃ。


桶の中に水と洗剤を入れ、服を手洗いする。

「いいご身分ですこと、私はずっと働いてるのに」

見返りは…求めてないと言えば嘘になるけれども

私だけ働いているのは、おかしいじゃない。

「私だけ頑張っていて、バカみたいだわ。

 いや、バカなんでしょうね」

あぁ、吹き出したら止まらないわ。

涙が、桶の中にこぼれ落ちる。


「やぁお嬢さん、何を泣いているんだい?」

そんなくぐもった低い、楽しそうな声がして顔を上げる。

仮面を付けた背の高い、銀髪の男が私を見下ろしていた。

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没落お嬢様、転落中 パルラコ @ami_44

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