Episode.1-2

「セラ様、じっとしてください」

 セラは明日の式典のための、最終衣装調整をしていた。

 明日はセラの16歳の誕生日であると共に、国民に初めてその姿をお披露目する式典が催される。それは、次期国王がセラであることを国民に表明する場でもある。

「ちょっとエリザ、あまり締めすぎないでっ」

「我慢してください。コルセットとはこういうものです」

「これでは、息が、できないわっ…!」

「普段から慣れておかないから、こういうことになるのですよ」

 セラはコルセットのキツさに、今にも倒れそうだった。

 明日のためのセラのドレスは、国の象徴色である真紅に、国花を金の刺繍であしらったものだ。

 ドレスはとても素敵だ。たが、セラにとってそのデザインは、この国の未来を背負うという責任が重くのしかかってくるように感じられた。

「それはそうと、明日のスピーチはきちんと考えていらっしゃるのですよね?」

「勿論。当たり前じゃない」

「では、原稿はどこに?」

「頭の中よっ!」

 自信満々にそう言ったセラに、エリザは頭を抱えて溜め息を吐いた。

 すると誰かが部屋をノックをした。

「王女殿下。今よろしいでしょうか」

 声の主は恐らく、国王の側近であるギルバート卿だ。

「殿下は只今衣装合わせ中でございます。何の御用ですか」

 セラの代わりにエリザが、ドアを開けずに問い返した。

「国王陛下がお呼びです。殿下に至急、お話しすることがあると。執務室にてお待ちでございます」

 それを聞いたセラとエリザは顔を見合わせた。

 国王とセラの関係は決して悪くはない。だが、こんなに急に呼び出されることはほとんど初めてだ。それに、ギルバートの声はいつに無く深刻そうだった。

「あっ、すぐ行くから…、そこで待っていて」

「かしこまりました」

 セラは不安を隠しきれず、返事をした声が裏返ってしまった。

「こんなに急にパパに呼び出されるなんて。エリザ、私何か怒られるようなことした!?」

「何か心当たりがおありで?」

「無いわよ!…でも、パパのためのお菓子をつまみ食いしたり、ちょーっと悪戯とかはしたかも…?」

「あるのではありませんか…」

 呆れた顔でエリザは、また深い溜め息を吐いた。

「でもそれぐらいよ!?わざわざ呼び出されるようなことなんてしていないわ!」

 慌てているセラを催促するように、またノックをされた。

「ハッ!着替えなきゃ!」

 急いでドレスを脱ごうとしたセラを、エリザは静止した。

「せっかくですから、そのお姿を陛下に見ていただいてはどうでしょう?」

「そうね。喜んでくれるかしら…」

「勿論!とてもお美しゅうございます。このエリザのお墨付きですから」

 エリザがそう言ってくれたことで、セラの不安は少し軽くなった。

 セラは深呼吸をし、背筋を伸ばした。

 先程までのおてんば娘の顔から、一瞬で王女の顔へと変わった。

「開けてちょうだい」

 セラの一声でメイド達はドアを開けた。

「お待たせしました、ギルバート卿。参りましょう」

「はい。エリザ殿、貴女は待っていてください」

 いつも通りにセラの後に付いて行こうとしたエリザを、ギルバートは止めた。

 冷静さを保ちながらも、エリザは困惑した。セラも戸惑った。

「何故でしょうか」

「国王陛下からそうご命令を受けましたので」

 いくら王女の側近のエリザでも、国王の命令には逆らえない。

「大丈夫よ、エリザ」

 セラは内心少し不安だったが、エリザを心配させないように過剰に振る舞った。

「かしこまりました」

 セラは国王の執務室へと向かい歩き始めた。

 エリザはセラとギルバートが廊下の角を曲がり、姿が見えなくなるまで見送った。

 

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