第三話 「戦う勇気はあるか?」
「ごちそうさま」
食事を済ませた舞は手を合わせると、食器をキッチンに運び、洗い始める。
「ありがとう」
美咲のお礼の言葉に舞は笑顔でこたえ、白色の皿をスポンジでやさしく
皿の汚れはきれいに拭い取られ、新品同様の輝きを取り戻す。
舞は両手で持った皿を眺める。すると、あの女性の姿が脳裏に浮かぶ。
(あの人は意識を取り戻したのかな……)
舞が心で呟くと、彼女の脳裏に浮かんだ女性の姿は消え、考えたくもない一文字の漢字がよぎる。
舞はその文字を振り払うように目を閉じ、首を数度横に振る。
(そんな事を考えちゃだめ……)
心で自分に言い聞かせると皿をかごに置き、鍋を洗い始めた。
食器を棚に収納し、舞は寝室に歩みを進める。
寝室のドアを閉め、椅子にゆっくりと腰を下ろすと、机上に置いたスマートフォンを右手に取り、スリープモードを解除する。
「お父さんの話、今日のことに繋がりがある気がするんだよね……」
舞は呟くと、検索画面を開き、この日の出来事に関連する文字を打ち込んでいく。
検索をかけたが、この日の帰り道での出来事を報じるニュースは検索結果にヒットせず、他県で発生した事件を報じるニュースの見出しが表示された。
「警察がマスコミに伏せているのかな……」
だとすれば、どうして伏せたのか。
舞の頭の中には疑問が生じる。
「ニュースになってもおかしくないのに……」
舞はそう言葉を漏らすと、天井を見上げた。
翌日、午前八時二十三分、舞が教室内の自分の席に着くと、クラスメイトの
「おはよう」
ポニーテールがよく似合う彼女が微笑みかけると、舞は頬を緩める。
「おはよう、結花」
二人は笑顔を交わし、談笑を楽しむ。
やがて、二年二組担任の
舞は青山の話に耳を傾けながら、なにかを考えるように教室の窓にうつしだされる景色を眺める。
気づいたころにはホームルームは終了していた。
チャイムの音が鳴ると、学級委員長を務める結花の声が教室内を包む。
舞たちがお辞儀をすると、教壇に立っていた青山は右足から歩みを進める。
その足はやがて、舞の目の前で止まる。
舞は腰を下ろす動作を止めると、なにかを察知したように直立不動の姿勢をとる。
青山は深刻さの窺える表情で、低い声を発する。
「聞きたいことがある」
舞は手招きする青山に
廊下へ赴くと、青山はなにかを警戒するような表情で周囲を見渡した後、舞に問う。
「昨日、中町駅に向かう途中、女性の叫び声を聞かなかったか?」
舞が戸惑ったように「は、はい……」とこたえると、青山は腕を組み、こう話す。
「実はその女性を狙ったのは、最近勢力を拡大させている県内に拠点を置く組織の人間らしい。女性は意識不明の重体になるほどの怪我を負った。だが、この出来事を報道するメディアはまったくない。不思議だと思わないか?」
舞は間を挟むことなく、青山の言葉に首を縦に振る。
「組織の中にメディアと繋がりのある人間がいて、そいつが新聞社やテレビ局に圧力をかけている可能性はゼロじゃない。まあ、仮にそうだとすれば、よほどの人間だ。警察が捜査に支障をきたす可能性を考慮し、話を伏せているということも考えられる」
青山の言葉は再び舞を頷かせる。
青山が腕組みを解くと、結花が二年二組の教室から姿を現し、やさしい眼差しを舞に注ぐ。
舞が笑顔でこたえると、結花は頬を緩め、二年一組の教室内に姿を消す。
青山は振り向くように二年一組の教室内を眺めた後、視線を舞に戻す。
青山のやさしい眼差しは一瞬だけ鋭くなる。
「ど、どうしたんですか?」
舞が戸惑ったように問うと、青山はわずかな沈黙を挟み、目の前の生徒に問う。
「戦う勇気はあるか?」
青山の声が止んですぐ、二年一組の教室から結花が姿を現し、再びやさしい眼差しを舞に注いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます