岐阜は雪景色の白川郷




「トンネルを抜けるとそこは……!!」

「なぁ〜に浸ってんの」

 富山は街中、岐阜の白川郷に向かうバスにて。東京から新幹線で二時間の旅をしてきた二人は、駅ビルで購入した七たま焼という、今川焼きにあんこではなく卵が入っているものをホクホクと食べていた。一時間で白川郷に着く予定だが、これまた予定が一週間早ければバスの運行がなかったくらい、二月の寒い中である。さわやかな青でグラデーションされた空に白い雲がぽつぽつと見えたかと思うと……あたり一面、純白の景色が広がった。まさに粉砂糖が振りかけられたような山々が見え、葉が落ちた木々が鬱蒼としているところは墨絵のようであった。窓越し半分ほど降り積もった雪道を通り、バスは停留所にとまる。この日のために購入したオシャレレインブーツでしっかり雪を踏みしめ、一歩。

「うわぁ!!」

 足先に感じるひんやりとした雪の感じ。頬をさする冷涼な風。不純物のない自然の筋を通った空気をいっぱいに吸うと、少し鼻がつんとする。おさげの少女も寒さからか興奮からか頬を赤くさせながらも、サクサクとその感触を確かめていた。

 他の観光客たちがぞろぞろと街に向かっているなか、慌てて二人も後を追う。建物のベースカラーから消火栓にいたるまで全て焦茶色で統一されており、雪の白と対比的に自然の豪快さをどっしりと受け止めているような、厳かな人の営みを感じられた。初めはいわゆる二階建ての、お土産が売られている店が続いていた。しかし、道を少し入れば、茅葺き屋根に厚い雪が積もり、三つ目のように窓のつく定番姿の白川郷が現れる。先週のこともあってか、一階部分が埋もれている家もあり、除雪作業をしている人も。軒先の鋭利なつららに注意しつつ、ときどきふわりとした雪に触れながら進む。

「うぅ、少し寒いかも」

「うん、お昼にしてあったまろうか」

 汁だんご、というやわらかな出汁のきいたつゆに、だんごととうふ、ねぎ、かまぼこが入ったものを食べ一息。ここまで見慣れぬ景色でむろん感動はしていたが、二人のイメージするザ・白川郷、というのがいまいち見つけられていない気がした。近くでその圧倒的な迫力を体感するのもいい。だが、もっと壮大な景色が──

「「これだ!!」」

 お食事処の先、揺れる一本橋の向こうに見えたその景色。白の河原にすぅっと筆で描かれた群青色の川が流れる。澄んだ水面がきらきらと輝く向こう側、いくつもの白川郷が居を構えていた。太陽が空高くに輝く下、そびえ立つ山のふもと、広い雪景色のなかに、悠然と並ぶ白川郷。これぞ日本の世界遺産。もちろん集落に入ることができた。頭のてっぺんまである雪の壁を迷路のように進みながら、小道に入り氷の張った小さな池を見たり、樹齢いくばくの木を見たり。家の中に足を踏み入れれば、昔使われていた台所などを見学でき、囲炉裏に火はついていなかったものの、両手をかざしてみるとちょっとだけ温かく感じた。


 白川郷の米粉で作られたというバームクーヘンとカフェラテを飲みながら、肌寒くなってきた身体を再度温める。同じように女子同士で来ていたグループが、さるぼぼ、という飛騨地方で昔から作られる人形をベンチに置きながら、逆光で影絵のように静謐な美しさを見せる景色を背景に写真を撮っていた。

「明日は鍾乳洞行ったあとどうするんだっけ?」

「ラーメン食べたいって言ってたじゃん。ホテル近く散策するんでしょ?」

 さるぼぼ作り体験、というものをガイドブックで見た気がする。帰りのバスで確認してみよう……そう思う黒髪の少女だったが、あやうく寝過ごしてしまうほど深く眠ってしまったのはいうまでもない。

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