第11話 一流品
私は、閉店して夏目君を連れ出した。
夏目君は、私と同じで一流品を知るべき人間だと思ったからだ。
一流を知ることで、夏目君のバランス感覚はより優れるだろう。
その方が、私の弟子に相応しい。
今の時代の平均月収は12万円だ。
夏目君は、きっとそこまではないだろう。
なくても生活していくのに困ることはない。
なぜなら。
国からの支援が手厚く、それだけあれば充分に生活出来るのだから。
だから、皆。
稼いだお金の使い道は、嗜好品、趣味、ギャンブル、オーダーにお金をかけるのだ。
特に整形であるオーダーは、老若男女問わず人気がある。
過去には、痛みや金銭的な面から整形を受けれなかった人達も。
筆師が現れて、喜んでいる。
この恵まれた環境の中で、高級なお酒をたくさん飲める生活を送っている人は、たった一握りだ。
その一握りに私も入っている。
このシステムに変わり、携帯産業は潰れてしまった。
今の時代は、ホストやホステスにお金を落とす人も、かなり減っている。
お酒のお金の価格が高騰しているせいだ。
そして何より芸能人と呼ばれる職業が、まったく稼げなくなっている。
まあ、稼げないと言っても、平均月収よりは遥かに上だ。
ただ、
美男美女は、例え
今の芸能人になる為に、わざわざハニワや土偶の顔にしてもらっている人もいる程だった。
そちらのオーダーについては、落とされることはない。
今まで、憧れや羨望の対象だった芸能人は、過去の話しだ。
今は、不細工だと笑われるだけだった。
あーー、また、話がそれてしまった。
どうも、私は夏目君と歩いているだけでかなり緊張するようだ。
今まで、こんなことはなかったのに……。
私は、夏目君をbarに連れてきた。
夏目君は、目の前のウイスキーに目を輝かせ、ワインに驚いてい。
何て、可愛いのだろうか……。
こんなに綺麗な顔をしていながら、何も知らないなんて。
その知らないものを、自分が提供してるという優越感と幸福感……。
私は、夏目君の顔に、【愛してる】と言われたいと思う気持ちをお酒で流し込んだ。
今の時代の、恋愛や結婚に男女の縛りなどはなかった。
なぜなら。
体を簡単に、筆師が造りかえられるからだ。
例え、男性を好きになっても望めばすぐに女の人になれるのだ。
ただ、残念なことに、体をいくら造り変えても妊娠は出来ない。
しかし、それを可能にする人物がいるという。
頂点を極めてものだけが出会えるという。
まあ、これは、いつか別の機会に話したい話しだな。
やはり、また、余計な事を考えている。
それは、たぶん。
夏目君がいるからだ。
私は今、兎に角、夏目君が欲しい
欲しくて、欲しくて、堪らない。
我ながら、シンプルに答えが出た。
だが。
それを口に出すことはよくない気がする。
まだ、夏目君のことを何も知らないからだ。
barを出て、並んで歩く。
夏目君は、さっきのお酒でかなり酔っているようだ。
一緒に、ご飯を食べに行く。
「青葉さん」
名前を呼ばれるだけで、嬉しかった。
夏目君が笑ってくれるだけで、幸せな気持ちになる。
師匠も私を見つけた時は、こんな気持ちだったのだろうか?
夏目君に向き合うと師匠を思い出す。
師匠を思い出すと切なくなる。
だけど、考えてしまうのだ。
師匠も今の私のように、心が踊ったのか?
夏目君のバランス感覚は、さっき見させてもらった。
夏目君は、ミリ単位の違和感にも気づいた。
やはり、夏目君は、一流の筆師になれる。
私は、そう確信した。
だから、こそ。
夏目君を、ここに連れてきた。
AIRIのパネルの前に連れていくと、夏目君はうっとりした表情をした。
所詮、夏目君もこちら側の人間のようだと思った。
いくら、オーダーで変えられても、女性と男性という性別はやはり変えられないのだ。
師匠も……。
私ではなく、造り上げたオーダー品を選んだ。
子供を産ませることが出来る能力を持っている人間に出会うことができれば、私は選ばれるだろうか。
どんなに綺麗な顔を造っても、どれだけ体を造りかえても。
所詮は、擬物。
本物の女性や男性を造ることなど出来ない。
私のお客様のなかにも、傷ついた人が何にもいる。
顔や体を造り変え、いったん結婚できたとしても。
「子供が欲しい」と別れられたという話しは、この両手だけしゃ足りない。
私も捨てられる。
夏目君を手に入れられたとしても。
それなのに、【デート】を申し込まれて私は驚いていた。
夏目君は、私が考えていることを読み取っているようだ。
まさに。
エスパーみたいだな。
酔いがいっきに回ったのか、夏目君のふらふらは酷くなった。
自分の家まで送るべきか?
いや、今日は夏目君に一流品を味わってもらいたい。
だとすれば、ひとつしかない。
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