第10話 初めまして
夏目君が、現れた時から私は心臓が速すぎて死んでしまうかと思っていた。
私自身が造った顔ではないことは、わかっている。
「あの、筆師になりたいんです」
弟子の募集なんてしていないのに、どうして来たのだろうか?
そもそも、私は弟子をとるつもりはなかった。
だって、私のようにバランスの取れたオーダー品を造れる人間がいるはずがないからだ。
オーダー品というのは、いわゆる造れた顔の事だ。
一昔前だと整形と言われていた。
オーダーされた顔とは、均一の取れた顔のことをいう。
例えば、眉毛が太いなら、この目で、この鼻で、この輪郭で、この唇……。
まるで、絵を描くように顔を整えていくのだ。
アニメや絵画の世界の住人は、完璧な顔をしているだろう?
私もそれを造りあげるのだ。
私達の仕事は、筆師という。
一昔前だと、美容整形の医師だった。
今は、筆を操れるものなら誰でもなれる。
でも、筆師にもランクがある。
大抵の筆師は、客の要望通りに顔を造り上げる。
その顔に違和感を感じることもない。
そう、例え0.01ミリの違和感さえも感じる事は出来ないのだ。
だけど、私と師匠は違う。
完全にバランスが取れていない顔を見ると吐き気がするのだ。
パズルのようにきっちりとそこにあるべき姿でハマってくれていないと、私と師匠も吐き気と寒気がする。
だから、こそ。
私の弟子などは存在しない。
今の世の中は、美男美女が溢れている……。
誰でも、美しい顔を手に入れられる時代だ。
しかし、誰もバランスが取れた顔をしているものは少ない。
何故なら、私と師匠のように完璧な顔を造るものの施術は高いからだ。
安価で施術を受けられる時代に、高い金を払いたい人はどれだけいるだろうか?
それに、普通の人間にはどの筆師に顔を造ってもらっても違和感はない。
人間の目など、その程度のものなのだと思った。
それなのに……。
私と師匠が造り上げる作品を、見た人はみんなうっとりした顔で見つめていた。
やはり一定数、気付く人がいるのがわかった。
だから、私と師匠は相場より高いお金で顔を造ることにした。
私と師匠が造った顔を持った者達は、各分野で一番を得ている。
わかっている人間は、私達の元に来た。
師匠がいなくなってからは、私の元に来ている。
最初に筆師になった時は、みんな気づいていないだけで同じだと思っていた。
私と師匠のような、一級のオーダー品を造れるのだと。
少し、話がそれてしまった。
とにかく、今、私はこの夏目君と向き合っているのだ。
私は、彼の顔を触りながらそんな事を考えていた。
「いじってる?」
尋ねた私に夏目君は、「いえ」と答えた。
まさか、
しかし、彼が嘘を言ってるようには見えない。
だけど、
どうしたものかな……。
あまりにも綺麗な顔で、合格と言ったのはいいのだけれど。
もし、本当にいじっていたとしたら?
もしかすると、海外の筆師に仕立ててもらったのかもしれない。
仕立てると言う言葉の意味は、造られたものという意味だ。
あーー、そんな事はどうでもいい。
私は、とにかく夏目君が
もちろん。
彼自身も知りたいのだろう。
たまに、オリジナルだと言っていた人の中に産まれてすぐに親が筆師に依頼した人間もいるから。
夏目君が、本物だという確証を……。
ーーそうだ!
私は、真麻を呼び、夏目君に筆を持たせる。
私達、筆師が使うこの筆は、特殊な筆なのだ。
私は、筆師を魔法使いだと思っている。
客は、何の痛みも苦痛も味わう事がなく、顔や体を変えられるのだから。
もう、今やオーダーなんて誰もがやってる時代だ!
ただ、どういう仕組みかオーダー品が筆を握って描いた所で、ただの筆で何も起こらないのだ。
私は、夏目君に、真麻の鼻を描かせることを決めた。
鼻筋がポテッとして、小鼻が大きめだった真麻の鼻は、みるみるうちに鼻筋が整い小鼻が小さくなる。
そして。
真麻の顔にとって、バランスのいい鼻が出来上がった。
やはり、
表情や態度には、出さなかったけれど…。
内心興奮していた。
私と師匠以外に、こんなにバランス感覚のいい人間がいるとは思わなかった。
弟子は、とるつもりはなかったけれど。
夏目君なら、私の後継者に相応しい。
それだけじゃない。
初めてだった。
私は、この顔をずっと見ていたい。
この顔に触れていたい。
他の筆師に渡したくないと思ってしまう。
もしかすると、師匠も同じ気持ちだったのだろうか?
オーダー品をずっと造っていた私にとって、
夏目君を私の元に置いておこう。
そして、育ててあげたい。
まだ、何色にも染まっていない。
これから、私が夏目君にいろんなことを教えてあげたい。
だから、これから夏目君を連れて行こう。
新しい世界を教えてあげよう。
夏目君が、元の世界に戻りたくなくなるように……。
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