第2話 港街と謀略の糸 1

 街道を歩きながら、フィオナがふと思い出したように口を開いた。

「そういや、掟って三つあったよな」

 指を折りながら数える。

「依頼の品は必ず届ける、殺生を目的とした荷物は運ばない、危険な荷物が届け先を脅かす場合は守る……だっけ?」

「そうだ」

「じゃあさ——」

 背負った木箱を軽く叩き、にやりと笑う。

「これが危険だったら?」

「届けた上で、守る」

 即答に、フィオナは目を細めた。

「……変わってるな。普通は危険なら捨てるだろ」

「俺たちは配達人だ。届けることが先だ」

 ルゥが肩の上で小さく笑い、「掟だからね」と口を挟む。

「ところで……なんでベビードラゴンなんか連れてるの?」

 ルゥが首をかしげ、フィオナを見上げた。

 フィオナはそれから口の端を上げた。

「ペットかと思っただけだよ」

 ルゥの目が細くなる。

「ペットじゃないし」

「だって、引っ掻くか噛み付くくらいしかできないだろ」

 レオンの足がぴたりと止まった。

「……お前が思ってるほど、弱くはない」

 低く静かな声に、フィオナは思わず肩をすくめた。

「……わかったよ、悪かったって」

 ルゥは小さく鼻を鳴らし、肩の上でそっぽを向いた。


---


「で、あんた昔は何してたんだ?」

「……配達だ」

「いやいや、今のじゃなくてさ。もっと前。こう……危ない橋渡ってたとか?」

「危ない橋は今も渡ってる」

 レオンはそれ以上言わず、前を向いたまま歩き続ける。その横顔には、何かを飲み込んだような影が差していた。


「つまんないな」

 ルゥがくすっと笑う。

「レオンはね、昔の話をするときはだいたい話半分なんだよ。残り半分は黙ってる」

「それ、話してないのと同じじゃん」

「そういうこと」

 ルゥは軽く肩をすくめたが、その目は一瞬だけ、レオンの背中を探るように細められていた。


「じゃあ、あたしの番だな。私は——」

 フィオナが言いかけたところで、レオンがちらりと視線を向ける。

「境界町の住人に、自分の出自を簡単に話すな。信頼できると確信してからにしろ」

「……へえ、用心深いね」

「生き残るには、それくらいでちょうどいい」

 ルゥが「でもフィオナの話、ちょっとは聞きたいけどね」と笑い、空気をやわらげた。

「じゃあ、魚食いながら話すよ」

「仕事が先だ」

「わかってるって」


---


 やがて潮の香りが強くなり、海鳥の鳴き声が聞こえてきた。

 道の先に、港町の白い壁と高いマストが並ぶ景色が広がっている。

 フィオナが尻尾を揺らし、「着いたら絶対魚だな」と笑う。

「港町って、ヴァルディア帝国の軍港なんだろ? 魚より物騒な匂いがしそうだけど」

 ルゥは「僕は甘いものがいい」と口を挟み、レオンは小さくため息をついた。

 三人の足取りは、港町の門へと向かっていく。

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