宮廷を追放された魔術師、無法街で竜の子と命がけの黒竜便を始めました
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第1話 はじまりの依頼
——俺はお前に言われてこの少女を連れて来たんだ!
——違う、俺は言ってない!
——そしたらこんな酷いことをして……
——違うと言ってるだろ!
「静粛に!」
玉座の間に響く怒声。
「レオン、お前の罪状は明らかだ。大人しく刑に処しなさい」
冷たい視線が一斉に突き刺さる。
どいつもこいつも……このままでは、この子も——。
「くそっ!」
「何をするんだ! レオンを捕えろ——!」
伸びてくる手、鎖の音——そこで視界が暗転した。
「……レオン、起きて」
耳元で小さな声がした。
まぶたを開けると、水色の鱗の小さな竜——ルゥが、心配そうに覗き込んでいた。
「うなされてたよ。嫌な夢?」
「……ああ。久々に、嫌なことを思い出した」
レオンは上体を起こし、額の汗を拭う。
窓の外では、境界街の朝の喧騒が始まっていた。
外套を羽織り、留め具を軽く締める。
そのあとでルゥをひょいと肩に乗せた。
「行くぞ」
「今日も配達?」
「そうだ。……掟は守る、命の限りな」
---
境界街の中心部、石造りの古い倉庫を改装した建物。
表向きは交易組合の事務所だが、裏では“闇配達”の拠点として知られている。
扉を押し開けると、紙とインクの匂いが鼻をくすぐった。
「遅かったですね、レオンさん」
受付カウンターの奥で、眼鏡をかけた黒髪の女がペンを走らせながら顔を上げる。
マルラ・フェン——この街の闇配達業の受付を一手に担う女だ。
依頼の危険度や依頼主の信用度を瞬時に見抜く観察眼を持ち、配達員たちからは“目利きのマルラ”と呼ばれている。
「依頼は?」
「その前に、新しい相棒を紹介します」
マルラが顎で奥を示すと、重い足音と共にガルド・ヴァン=ローグが現れた。
境界街の闇配達業の長にして、掟を破る者を処分する粛清部隊の隊長でもある男。
白髪交じりの短髪、片目に古傷の眼帯。笑っているのに、目はまったく笑っていない。
「おう、レオン。こいつを連れていけ。新米のフィオナだ」
ガルドが肩を押して前に出したのは、山猫獣人の女。
しなやかな体つきに鋭い金色の瞳。腰には短剣、尻尾は不満げに揺れている。
「……俺は一人で十分だ」
「知ってる。だが今回は教育係も兼ねて二人でやってくれ」
「なんで俺に? 今まで全部一人でこなしてきた。カゲリでもいいだろ」
「あいつは今どこかに行ってる」
「……また逃げてるな」
レオンがぼそりと呟くと、肩のルゥが小さな翼をぱたぱたさせ、「逃げ足だけは速いもんね」と茶化した。
「腕は立つが、尻尾が先に動く。お前が手綱を握れ」
「誰が尻尾だ!」とフィオナが噛みつく。
ルゥが「尻尾じゃん」と追い打ちをかけ、フィオナの耳がぴくりと跳ねた。
マルラは書類を一枚差し出しながら続ける。
「港町はヴァルディア帝国領の河口にあります。境界街から川を下れば半日。帝国の軍港としても使われている場所です」
フィオナが耳をぴくりと動かす。
「へぇ……帝国の港に行くの? なんか物騒そう」
「物騒だが、依頼は依頼だ」
レオンは短く答え、書類を受け取った。
マルラが淡々と告げる。
「港町行きです。掟はご存じですね?」
「依頼の品は必ず届ける」
「殺生を目的とした荷物は運ばない」
「そして——危険な荷物が届け先を脅かす場合は、その安全を守る」
ルゥが小さく身じろぎした。
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