宮廷を追放された魔術師、無法街で竜の子と命がけの黒竜便を始めました

62

第1話 はじまりの依頼

 ——俺はお前に言われてこの少女を連れて来たんだ!

 ——違う、俺は言ってない!

 ——そしたらこんな酷いことをして……

 ——違うと言ってるだろ!


「静粛に!」

 玉座の間に響く怒声。

「レオン、お前の罪状は明らかだ。大人しく刑に処しなさい」

 冷たい視線が一斉に突き刺さる。

 どいつもこいつも……このままでは、この子も——。


「くそっ!」

「何をするんだ! レオンを捕えろ——!」


 伸びてくる手、鎖の音——そこで視界が暗転した。


 「……レオン、起きて」

 耳元で小さな声がした。

 まぶたを開けると、水色の鱗の小さな竜——ルゥが、心配そうに覗き込んでいた。

「うなされてたよ。嫌な夢?」

「……ああ。久々に、嫌なことを思い出した」


 レオンは上体を起こし、額の汗を拭う。

 窓の外では、境界街の朝の喧騒が始まっていた。

 外套を羽織り、留め具を軽く締める。

 そのあとでルゥをひょいと肩に乗せた。

「行くぞ」

「今日も配達?」

「そうだ。……掟は守る、命の限りな」


---


 境界街の中心部、石造りの古い倉庫を改装した建物。

 表向きは交易組合の事務所だが、裏では“闇配達”の拠点として知られている。

 扉を押し開けると、紙とインクの匂いが鼻をくすぐった。


「遅かったですね、レオンさん」

 受付カウンターの奥で、眼鏡をかけた黒髪の女がペンを走らせながら顔を上げる。

 マルラ・フェン——この街の闇配達業の受付を一手に担う女だ。

 依頼の危険度や依頼主の信用度を瞬時に見抜く観察眼を持ち、配達員たちからは“目利きのマルラ”と呼ばれている。


「依頼は?」

「その前に、新しい相棒を紹介します」

 マルラが顎で奥を示すと、重い足音と共にガルド・ヴァン=ローグが現れた。

 境界街の闇配達業の長にして、掟を破る者を処分する粛清部隊の隊長でもある男。

 白髪交じりの短髪、片目に古傷の眼帯。笑っているのに、目はまったく笑っていない。


「おう、レオン。こいつを連れていけ。新米のフィオナだ」

 ガルドが肩を押して前に出したのは、山猫獣人の女。

 しなやかな体つきに鋭い金色の瞳。腰には短剣、尻尾は不満げに揺れている。


「……俺は一人で十分だ」

「知ってる。だが今回は教育係も兼ねて二人でやってくれ」

「なんで俺に? 今まで全部一人でこなしてきた。カゲリでもいいだろ」

「あいつは今どこかに行ってる」

「……また逃げてるな」

 レオンがぼそりと呟くと、肩のルゥが小さな翼をぱたぱたさせ、「逃げ足だけは速いもんね」と茶化した。


「腕は立つが、尻尾が先に動く。お前が手綱を握れ」

「誰が尻尾だ!」とフィオナが噛みつく。

 ルゥが「尻尾じゃん」と追い打ちをかけ、フィオナの耳がぴくりと跳ねた。


 マルラは書類を一枚差し出しながら続ける。

「港町はヴァルディア帝国領の河口にあります。境界街から川を下れば半日。帝国の軍港としても使われている場所です」

 フィオナが耳をぴくりと動かす。

「へぇ……帝国の港に行くの? なんか物騒そう」

「物騒だが、依頼は依頼だ」

 レオンは短く答え、書類を受け取った。


 マルラが淡々と告げる。

「港町行きです。掟はご存じですね?」

「依頼の品は必ず届ける」

「殺生を目的とした荷物は運ばない」

「そして——危険な荷物が届け先を脅かす場合は、その安全を守る」

 ルゥが小さく身じろぎした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る