第十六帖 灰廉「制裁いたします」

「灰廉様、わざわざお付き添いいただき、まことにありがとうございます」

灰廉は、何も知らないお母様には丁寧に挨拶しつつ、お父様を睨みつけました。

「な、なにを……」

「なぜ睨みつけられるのか、御自分が一番よくおわかりなのでは?」

灰廉が圧の効いた低い声で宣うと、お父様は震え上がりました。

「あ、あなた、なにか灰廉様に粗相を……」


灰廉とわたくしが事情を話すと、お母様は血の気の引いた相貌になり、お父様は縮みあがりました。

「無垢な子供にこうも偏った考え方を吹き込み、数々の犯罪行為を起こさせるに至ったような人物を、お孫さん達のおそばに置いておくわけにはいきますまいね?

 悪いことは申しません、家督である御母上に逆らったことにして離縁なさってください」

「そ、そうでございますね……

 そのような畏れ多いこと……灰廉様でなくとも誰かを殺めようと、黒曜の人生を私物化しそそのかすなぞ、逆らったも同然にございますし……

 まったく、我が家の威光をそのような野望を達成するために利用したく、わたくしに近づいたので御座いますか?!

 穢らわしい!

 二十八年間まんまと騙され続けていた自身の情けなさよ!」

お母様は灰廉と同じように、お父様を蛇のように睨みました。

ああ……

あの常に偉大に見えていたお父様が、家督であるお母様は致し方ないといたしましても、あれだけ長年事あるごとに莫迦にし、軽蔑し倒していた灰廉に、実際凄まれるや否や、こうも蛇のように縮み上がりますとは

……わたくしの中で大きかったものが、音を立てて崩れていくような音がいたしました。


「しかし……

 子が多いからと自身に言い訳し、黒曜に充分に教育の目を届かせず、そのような思考を受け入れさせるような心の隙を作ってしまったわたくしにも問題がございます。

 黒曜、ひどく寂しい想いを抱かせてしまって、ごめんなさいね」

「お母様……」

「そして灰廉様、まことに申し訳ございませんでした」

両親が深々と頭を下げたので、わたくしもそれにならいました。


「よいのです。

 謝罪よりも、これからの行動が大切にございます故。

 真に心から反省しておられるなら、御父上が野放しではわたくしおちおち安心して暮らせませんので、もう二度と子供と関われぬような環境に身を置いてくださいまし。

 具体的には、我が邸の倉庫に寝泊まりし、他の方と関わってお相手を洗脳なさっては困るので単独で、縫司ぬいのつかさとして衣服の管理をしていただきます。

 働きに応じたお給金もお出しいたしますが、許可なしに外には出ないこと。

 逃げ出そうとは考えないでくださいまし。

 外郭には番兵が目を光らせておりますからね?」

「そ、そのような……

 それでは監禁ではございませぬか……」

「本来ならばお二人揃って牢獄か斬首でもおかしくない罪状でございますよね?

 そちらの方がおよろしいのですか?」

「さ、さようにございますね……

 そ、それでは、わたくしさえその処遇を受け入れれば、黒曜には罪を問わないでくださるのですか?!」

「そうですね、今後一切怪しい行動がないならば、お父様の洗脳と扇動が悪かったということになりますから」

「黒曜を離縁すらなさらぬとは、なんと寛大な

 ……ならば、それぐらいの処遇は喜んで受け入れます!」

「ふふっ、娘への愛だけは本物にございますね」



灰廉はそのままお父様をも皇居に連れて帰り、黒曜君の御父上が家督の御母上とお揉めになられ追い出されてしまったので、我が邸で面倒を見ることにいたしました、と皆に説明をしました。

「黒曜君も未だ精神が不安定ですので、皆様なるべく彼女をお一人にせず、目をかけてさしあげてくださいましね」

金剛や妃達や女官、女房達は、特に疑いもせずに受け入れてくれましたが

……わたくしも……牢獄やお父様ほど御辛い身ではないけれど、今後は後宮に閉じ込められて生きていくのだわ

……いえ。

たしかにそれだけのことをいたしましたわ……



次の御渡りの日。

わたくしは灰廉の行動に度肝を抜かれることとなりました。

「お、御渡りなど、周りにわたくしたちの間に何かあったと気取らせないため形のみ、でよいでしょう

 ……な、なぜ今更、衣を脱ごうとなさるのですか?!」

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