星彩の召喚札師ⅩⅡ
くいんもわ
眩く星は煌き
在りし日を思い返す
エタリラ西部、火の国サラマンカの北火山地帯の外れ、その最奥は火山帯に住まう生き物ですら近寄れない大地が広がり、限られたごく一部の力あるものだけがいる事を許される。
彼らはそこで切磋琢磨し己を高め合う。溶岩に囲まれた岩から岩へと跳び移りながらカードを手に走り、各々が召喚するものへ指示を飛ばす。
「流石に手強いな、メタル、そろそろ決めるぞ!」
身体に刻む炎の入れ墨が赤く光る十二星召が一人カラードは胸躍る昂りに従い炎の黒犬ヘルハウンドのメタルに檄を飛ばし、メタルもまた目を光らせ噴き出す溶岩を突っ切り敵へと迫る。
カラードと相対するは十二星召クロス。召喚するアセスは灰色の鱗と鋭い爪牙持つドラゴン・リンドヴルムのイクスだ。
メタルが飛びかかるのにイクスも吼えながら真正面から喉元に食らいつきに行き、お互い相手の首筋に牙を突き立て爪で身体を穿きながら溶岩を浴びようとお構いなしに取っ組み合い、アセスが受けるのと同じ傷と痛みがクロスとカラードにも現れ襲いかかる。
獄炎環境で戦うなど自殺行為に等しい、だがそれ以上に二人のリスナーの闘志は燃え上がりそれを受けるアセスもまた闘争心の赴くままに相手に挑みかかり、満身創痍になろうと傷だらけになろうと攻め続けやがて一度離れ睨み合いながら唸り合う。
「どうだクロス、ちっとは昔に戻れたか」
「まだだ、まだ足りない。今の俺に必要なのはあの時の感覚、それ以上のもの……まだ付き合ってもらうぜ、カラード」
手を見つめ握り締めたクロスが腰につけたカード入れからカードを引き抜き、ニッと不敵に笑い応えながらカードを手に持つ。
かつて共に旅をし切磋琢磨し合いながら高みに到達し、今、高みを目指そうとする者達に壁として立ちはだかる側となった。
そして、同じ時を歩んで来た者が常に強さを求めて今尚強くなるべく研鑽に励んでいると思うと、クロスも、カラードも、若き日を思い返しながら全力でぶつかり合う。
ーー
星が映える夜空の下、生き生きと噴き出ては流れる溶岩の大河を見下ろせる谷に研鑽を終えたクロスとカラードがそれぞれ自身の手当を進め、慣れた手付きで包帯を巻き終えると服を着直し一息つく。
「ったく、昔なじみでマグナの真化に付き合ってもらった手前断るわけにもいかなかったがよ……ちっとは加減しろよな」
「そういうわけにもいかねぇよ、バエルの奴の事もあるし……俺自身も少し止まっちまってたからな」
呆れ気味に意見を述べたカラードが夜空を見上げ何かを思うクロスの横顔を見てすぐに悪かったと謝り、共に星空を見上げた。
かつての旅の時も同じように切磋琢磨し、自分達で手当をしながら休む事も多々あった。その頃は他の仲間もいて治療や食事の用意といったものもしてくれたのも思い返すと、懐かしい気持ちが込み上げる。
同時に寂しさや虚しさといったものもまた思い出せる。特にクロスは、今でも忘れられない思いと共に一枚のカードを引き抜き谷間からの溶岩の光に照らされるそれを見つめながら思い返す。
「あの頃は、俺達も世界の事はよくわからないまま、無我夢中で目の前の事に挑んでたからな……最後の最後になってようやくしてきた事の意味とか理解して、こうして今は教える立場って思うと不思議にってのが多すぎるな」
「それだけ歳食ったってだけだろ。それに変わらねぇままのものもある、変わっちまったもんも、変わってくものも……バエルの奴もそれはわかってるだろうし、な」
あぁ、と返しながらカードをしまいつつ、クロスも思うのは
若き頃からの好敵手として幾度も戦い、戦友と呼べる間柄なのは間違いない。そして互いに得て失ったものの大きさが、今もまだ影響しているのもまた。
「バエルが言っていた、俺達はカードの表裏……それだけの差だと。そう言ってる本人が一番諦め切れてなかっただけに、今回の星彩の儀の話は驚いたな」
そうだな、とカラードも相槌を打って共に思い返すのは星彩の儀と、それに伴う五曜のリスナーの再選定を行うという内容について。十二星召筆頭デミトリアからの手紙で話を受けてすぐに彼の所へ二人で赴き、バエルも承諾済みと聞いて本人を探し出して真意を問いただそうとしたが、何も答えずに去ってしまった。
だが彼の中で変化があったこと、それが自分の弟子であるエルクリッドの存在が関わってるのはクロスは理解でき、自分が今こうしてカンを取り戻す為の準備をしてる事に繋がっている。
溶岩の大河の熱気が高まるのを感じふっと笑いクロスは立ち上がり、予備のカード入れからカードを取り出し腰のカード入れへと移し替え、カラードも同じように帯に挟むカード入れの蓋を外し立ち上がった。
「さて続き、だな。お前のマグナの力ももっと研究しなきゃならねぇし、俺ももう少しでバエルに追いつけそうだしな」
「あぁ、近い内にお前の弟子達もオイラに挑みに来るってーのは間違いねぇからな。それまでに仕上げとかねぇとな、全力で相手する為にも」
エルクリッドがアヤセを含め六人の十二星召を倒し既にバエルへの挑戦権にもうすぐなのは聞き及んでおり、十二星召全員の撃破を目標としてるのはクロスとカラードも小耳に挟んでいる。
クロスは弟子の成長に、カラードは急成長した後輩に嬉しさと喜びを覚えている。無論、それ以上に高い壁として迎え撃ち全力を出し切ること、力を確かめるという事も忘れてはいない。
再び闘志を高め向かい合う二人がカードを引き抜き戦いを始め研鑽する。そして奇しくも、同じようにエタリラのある場所で一人研鑽し息を切らし汗を流すのは、挑戦者が来る事を待つバエルであった。
「まだ、だ。まだ、高みへ……!」
己に言い聞かせるようにバエルが闘志を燃やしながらカードを引き抜き、滾る魔力が熱風となり火炎旋風を巻き起こす。
かつて大きな災いに挑みし者達は英傑となり、時を経て新たな世代へその役を渡すか否かを試す。己の心技体にさらなる磨きをかけながら、その時を待ち続ける。
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