第2話:母さんの話

 忌み子を産んだ母親というのは、その子とどう向き合えば良いのかが人生の課題となることが多い。殊に、その子が世界の在り方を根底から覆す運命により生まれた場合は。

 自分には高い霊能力が備わっていた。視ることも聴くことも、祓うことも出来た。神仏から悪魔、異星人、妖精、幽霊など、様々な存在と渡り合ってきた。

 そして、これまでの全ての過去世の記憶があった。幾度も人間に生まれたが、その最初にいたのはシリウスの記憶だった。大切な人を、命と引き換えに悪人たちに売った記憶。そして、その大切な人が悪人たちの手により残酷な最期を迎えた記憶。

 この宿業のために、自分は地球に転生したのだろう。最初はアトランティスだったが、その後はずっと地球人だった。シュメール、トルコ、ヨーロッパ諸国、ネイティブアメリカン、日本、スコットランド。

 自分は、何を望んで地球に来たのだろう。地球は、宇宙に存在する他のどんな星よりも過酷で難易度の高い修行の星であると、自分は聞いたことがあった。生来、高い霊能力を持って生まれたことにも意味があるのだろうかと、何度も考えていた。

 様々な修行を積んでも、霊能力をどんなに磨いても、その答えは得られなかった。学生時代、卒業、就職、結婚、出産、育児。次第に、心は日常に埋没していった。だが、運命というのは変わったことをするものだ。

 三人目の子供は娘だったが、生まれる前にあることに気付いた。その子は、自分が悪人たちに売り飛ばした“大切な人”だった。

 その子は健康な子だったが、他の子供にはない、奇妙な精神的特性があった。まるで、自分にはこれが相応しいのだというように、惨めな状態に在りたがるのだ。そして何度もトラブルを引き起こした。

 その度に何故そんなことをするのかと訊くが、その子は何も言わず、答えず、感情反応も示すことなく、何もかも気に入らないと、物を壊して回るだけだった。

 理解出来なかった。子供とは可愛らしく、素直であるべきだと思っていた。この子は、普通ではない。何度も周囲からそう言われたが、きっと何かあるのだと、普通の子だと、信じていた。

 しかし、信じようとする想いは、愛情は、その子には届かなかった。何度も自殺未遂をし、何度も行方不明になり、何度も問題行動を起こした。皆がその子を嫌悪し、その子も周囲を嫌悪した。

 それでも、どうしようもないとは言いたくなかった。いつか他の子と同じように笑ってくれることを、信じていた。

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カノッサの為のデウス・エクス・マキナ──The stories of someone. ビスマス工房 @bismuthstudio

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