箱庭の中の金魚
蘆屋深紅
第1話
箱庭の中の金魚
もう何日経っただろうか。私はこの小さな部屋でノートパソコンに向き合っている。毎日9時から18時まで、休憩は1時間。拘束時間は9時間。18時で仕事を終えて、夕飯を食べて風呂に入って、少し今日のニュースを見たりして、スキンケアなんかをしていたら寝る時間でベッドに入る。
今日は、何日だろうか。
朝、起きて9時まではその日の気分で過ごす。朝食は食べたり、食べなかったり。
散歩に行く日もあれば、ゲームをしている日もある。
今日はベッドに横になり目を閉じる。アラームは掛けてある。目覚めてから身支度をして、時間には間に合わせる。
目を閉じて、考える。なぜ、不満なのかを。
他人と極力会わずに済む、時間を有効利用出来る、集中出来る。そんな風に思っていたのに。
目を閉じたまま、大きなため息が出た。
もしかすると、話したこともない他人と毎朝会う満員電車はそれはそれでコミュニケーションだったのかもしれない。
毎朝立ち寄るコンビニの、話したこともない店員とのやりとりはコミュニケーションだったのかもしれない。同じ雑居ビルに居る人、近くの会社の人、ただすれ違うだけの人。どれもこれも、コミュニケーションだったのかもしれない。
今は、日によってはビデオ通話すら無く、ひたすら文字を数字を処理している。
私が望んだ環境だった。憧れた環境だった。今は、少し……ほんの少しだけ、あの喧騒が自分を正気にしてくれていたと思う。
箱庭の中の金魚 蘆屋深紅 @ashiya_shinku
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