俺がTSするだけの物語

@akane01

第1話 転換

18世紀ドイツの哲学者カントは言った。人間が美しいと感じる根拠は「目的なき合目的性」にある。


つまり、美しいと感じる対象に対して、人間は利害や感情に動かされず、そのもの自体の形やあり方に純粋に喜びを感じるということだ。


美少女をこの目で拝んだ時、顔がかわいいやファッション性がいいことで、自分の心をときめかせるわけじゃない。


美少女の在り方にそのものに対して、人の心は惹きつけられるのだ。


だから、決して俺が、宮水菊馬が100年に一度の美少女になろうとも、例外なく在り方を考えざるをお得ないのであろう。





日曜日の朝、部屋全体に目覚まし時計がけたたましく鳴り響いた。


平日じゃないのに、こんな朝早くから起きなきゃならんのだ。


ぼやけた視界の中、手を伸ばして音を止める。


二度寝を決め込もうと枕にダイブをかます。


が..... いつもくるはずの枕元に頭が乗っからない。

それに、掛け布団がなんだか大きいような気もする。


気分が悪いし、ランニングを1500キロ走った後のような、疲れが俺を襲う。


その違和感のせいで体が思いの外反応し、ぜんぜん眠りにつけない。


まだ眠たいけれど、起きてしまおう。


胃の中にあるものをすべて吐きそうなくらいの脱力感とぼやけた目を擦る。


ベットから立ち上がろうとした時、急に視界が反転した。


布団に足が絡みつき、冷たい床へと投げ出させる。


「うわ!!!!」


ベットから落ちた衝撃で背中が痛い。


ライトブルーの髪の毛が顔の前にふわっと覆い被さり、なんだかむず痒い。


おかしい。髪の毛が覆い被さるなんて、そんなこと起きようがない。


だって、髪なんか伸ばした覚えはない。一夜にして、この毛量まで生えてくることなんかあるのか?


それに、日本人離れしたこの髪色....

外に出かけたら、周りの人に見られるだろうな。


少なくとも、男子高校生がしていい髪色じゃないことは確かだ。


とりあえず、今自分がどうなっているのか確認するために、洗面所に行こう。


痛みで張り付いた背中を起こし、洗面所まで急行する。


すると鏡には、見たこともないほどの美少女が写っていたのだ。


髪の毛は背中まで伸び、ライトブルーの配色がとても美しい。

くりくりしたコバルトブルーの瞳は、より一層可愛い雰囲気を醸し出している。


身長が縮んでないか?昨日まであった170cmは絶対にない。


今は150cmあれば良い方じゃないか?


身体のほうも胸板がかなり厚くなり、お尻も大きくなったような....?


おいおい!! まてまて!!


朝起きた時にすでに違和感はあったんだ。だけど、目を瞑ってここにきた。


大丈夫。確認は一瞬、必ずあるさ。


そーと、自分の下半身に手を伸ばすが、息子とも言うべきもの消えていた。


いくらまさぐってもない。ない。ない。


そのかわりに小さめの穴が備わっている。

俺はその穴の入り口付近を触った時、否応でも理解した。


俺は女の子になってしまったのだと。


「なんじゃこりゃーー!!!!」


使うこともなく消えてしまった息子というべき存在を、悲しみを込めて叫んだ。


これからどうしよう....


「え? 誰? この女の子?」


先ほど叫んだ声のせいで姉が来てしまった。


「めちゃめちゃ、美少女じゃん!!」


俺の背後に立ち、なにも言わずに寝癖をついたライトブルーの髪をとかす。


なんでなんも言わないの?

姉からしたら、不審者もいいところなのにさ。


「ねぇ〜 お家はどこなの〜?」

「.....」


なにかを察していそうな、どことなく迷いがないように、一つ一つ丁寧に髪を解いていく。


これ以上黙っていたら、とんでもない目に遭わられそうな、そんな直感を感じた。


「ちょ、姉貴、やめろ」

「あ! やっぱり、菊馬か」


目の前の女の子が俺だと分かっても、髪を触るのをやめない。

むしろ、距離が近くなったような?


「ねぇ、なんでそんな可愛くなったの?」

「知るか。戻り方を知りたいね」

「一生このままでいいじゃん!!」


人の人生をなんだと思ってるんだよ?

俺には、好きな子がいるんだ。


告白は、まぁできてはいないけれど。

女の子のままじゃ可能性がゼロパーだ。


それより、幾分男なら、あるかもしれない。


「あんた、ほんと可愛い♡」


肌と肌が重なり合い、体温が伝わる。なんで姉とこんなことしなきゃいけないんだよ。


気持ちわり。


頬を膨らませて、足先で床を前に蹴るように不機嫌をあらわにしたが、姉には気づかれなかった。


髪を触ってきた時、なにやらこの女子が俺だって分かってた風だったな。


聞いてみるか。


「男の姿の微塵も残ってないのに、俺だってよくわかったよね」

「なんか菊馬の雰囲気に似てるなって感じたのよね」


雰囲気とか、空気とからで分かってたなら、俺の名前呼べよ。触ってくるなよ。


「ん〜? 中身が菊馬でも、皮は美少女なんだよ? そりゃいじたくなるでしょ?」


そこ言葉を聞いた瞬間、自分の部屋まで一目散に走り出した。


これから、俺でなにをするのか分かってしまったからだ。

絶対着せ替え人形にする気だ。


はやく部屋の鍵を閉めて、立て篭もるぞ。


駆け出した時に一気に俺を捕まえた。


「もうなんで逃げるの? これから可愛くしてあげようとしたのに」


背後から耳に吐息を当てる。

そんな悪魔な声に全身をビクビクする。


なんとか逃げ出そうともがくが、姉の力がゴリラ並だ。


筋力も体力も落ちている。逃げることは不可能に等しい。


手をワキワキしながら、おちょくる気で俺を抱きかかえる。


お姫様抱っこの形で半ば強引に姉の部屋へ引きずりこまれた。


「やめろよー!!」

「ロリっ子は静かにしてましょうねー!!」

「ロリじゃねぇよー!!」


誰がロリだ。身長は別に小さくないだろ。

お前が女子にしては体格が良すぎるだけだ。


そのせいで小さく見えるだけ。そんだけだし。けっして良いわけじゃないから!!





「きゃーかわいい。こっちの服もきてみよっか♡」


うう、死にたい。なんでこんな服持ってんだよ。絶対着ないくせに。


頭についたリボンのカチューシャがライトブルーの髪色にマッチしていて、愛らしい。


ゴシックドレスのフリフリレースが人形のようだ。


「ちょ、もういいだろ。こんな服に二度着ないし」

「こんなにかわいいのに着ないなんて人類の損失だよ!!」


別に俺は女の子のレベルとかあげたくないのだが。


「まだまだ女の子としてのレベルがたりませんなぁ~」

「うぜぇ」


どこからともなく化粧品をもって、俺の顔になにを塗り始める。


水ぽいさらさらな液体が顔中にかかる。


「やるなら、一言言えよ」

「絶対嫌って言うじゃん」


まぁそりゃそうだろ。なんで男が化粧しなきゃいけないんだ?


その水ぽいなにかをそこらへんにあった、タオルで拭いた。


なんだか、熱いんだけど。この衣装。


「ってかもう脱いでいい?動きにくいし、母さんと話ししなきゃだし」

「いやだめだめ。今日はそのままでいて。じゃなきゃ」

「じゃなきゃ?」

「菊馬が好きな神崎さん言っちゃうぞ〜」


は? なんで俺の好きな子の名前を知ってるんだ? 姉と神崎さんって繋がってるの?


初めて知ったんだけど!?


でも、姉の発言がすべて嘘である可能性もないわけじゃないが、神崎さんの名前出てたしな。


なにかは知ってそうな....


ともあれ、今の自分を彼女に知られたくないのも事実だ。


少なくとも、今は従うしかないな。


「....絶対言うなよ?」

「わかってる。わかってる」


今日一日中、動きにくいこの姿で過ごすことになってしまった。


両手を拍手するかのようにパチンと響かせる。


「じゃあ、続きね♡ お化粧してみよっか♡」

「絶対嫌!!」


俺は姉の腹に拳を叩き込んだのだった。

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