第6話 左の頬を殴られた?じゃあ右も殴っていいよね?

「ほんと馬鹿な子だよ…お母さんアンタが心配で心配で…ぐびぐび、、プハー♪もう一杯!」


私を叱っているんだか絡んでいるんだか、母はビールを飲みながら私を説教している。どうも自分で顔を引っ張ったり叩いたりしていたことを心配しているらしい。…多分心配していないんだろうな、ただの絡み酒だよな~と思うのだけれど、今は誰かと話している方が気がまぎれた。


「久江飲み過ぎだよ?夜風も早くお風呂に入りなさい(避難しなさい)」


と父は助け船を出してくれた。その心は嬉しいのだけれど、今はちょっと余計な気遣いだったよと父を睨む娘の私です。


「ん~わかった~お風呂入ってくる~」


絡み酒から解放された事と同時に、一人で目の中のメイドを意識する時間となってしまった。相変わらず視界の右上にビシッとした態勢でこちらを向いている。コイツ、疲れないのかな?とこちらが疲れた顔で思ってしまった。微動だにしないその姿勢にイライラしてきたので、再び自分の頬を抓ろうとしたのだけれど、その元気はなくなっていた。ノソノソと自分の部屋へと階段を上がるのだけれど、やっぱりイライラだけはした!

だから私は…


「せめてもうちょっと邪魔にならないようにできない?さもないと追い出すわよ?」


と出来もしないことを呟いてみた。ぶっちゃけ今すぐこのメイドを消したいと思っているのだけれど、その方法など見つかるはずはないのだ。PC上のイルカの消し方をイルカに聞くぐらい無駄な行動なのだろうなあ、と動画サイトで見たネタを思い出すぐらい疲れている。だけれど呟かずにはいられない精神状態になっていた。


(見つかるはずないよね~追い出す方法…だってコレ私の脳みそが作り出したバグみたいなもんだから。昼間の文字の隙間から見えた目と口?あれもバグよバグ)


そう思いながら自分の部屋に入りため息をついては、ベッドに横たわり視界のメイドをぼんやり眺めた。

すると、そのメイドは焦った表情で何か一生懸命画用紙(?)に何かを書いていた。


「ん?」


と私はその行動の変化に首を傾げメイドを注視していると、メイドはバッと画用紙を掲げてこちらに見せている。


『それだけはご勘弁を!!』


と撮影に使うカンペのようにこちらに文字で意思疎通してきた!


「えええ!?こいつ…こっちの意思がしっかり伝わるぞ!!??やっぱり伝わっているよね、ね!!??」


あの微動だにしなかったメイドが、学校の時のようにこちらに意思を伝えようと必死の形相でカンペを振っている。そして振られると物凄く読みにくい!その変化に驚き私はベッドから上半身を起し正座してメイドを見つめて口を開いた。


「取り敢えず、視界の右上じゃあなく、真ん中に来なさい今すぐ!!」


と視界の右上をぼんやり見るというのは実は凄く精神を削られる。「視界の端まで意識を巡らすようには人間の脳みそは出来ていないの!」などと適当なそれらしい事を小声でメイドに言った。するとどうだろう。メイドはスタスタと視界の真ん中。私の2m先に立つような位置に移動して来た。それも赤面しながら!


(コイツ、何で赤面してんのよ!?人見知りかな??恥ずかしがり屋さんかなぁ!?)


私はメイドをまじまじ見ながら首を振ってはメイドが同じ状態で視界の真ん中にいる事を確認した。やっぱり私の目の中に居る~とため息をつきながら謎メイドと対峙していた。するとメイドがまたカンペに何かを書き始めた。私はベッドで正座しながらその様を見ていたのだが、思ったよりも…字が汚い。


「や、アンタ、メイド失格だよそれは。字が汚い」


とポロっと本音が漏れた。するとメイドは書いていたページを捲り、新しいページにサラサラと文字をかいてこちらに見せた。


『女中の私に文字がキレイとかキタナイとか言われても…』


と書いてある。なんだコイツ?抗議文かな?と私は腕組みをしながら論破を試みた。


「いや、関係あるでしょ?現に今筆談してるよね?読めない字を書かれても伝わらないよね?」


と学校の先生のような正論を投げつけた。するとメイドはプルプルと小刻みに震えながら物凄い勢いでカンペ(名称固定)に文字を書き込んでこちらに向けた。


『これでも私は【女中衆】の中でも文字は上手い方だって【姫様】が言ってくれたんですよ?それなのにあんまりじゃないですか!いっしょうけんめい仕えようとしている私の心を無視して言いたい放題なんてちょっと主人としては最低だと思います!これは、そう、パワハラ!パワハラってやつですよ!もう労基に訴えますからね!雇い主が私にパワハラするんですって言いますからね!?裁判ならきっと私が勝ちますからね!いいんですか!?こんな有能な女中は他にはいませんよ!謝らないと実家に帰りますからね!!??』


と熱意溢れる抗議文をカンペにびっしりと書いてこちらに見せつけてきた!


「なっが…」


メイドの心の叫びのカンペは私の3文字で感想が終わった…

するとメイドはめそめそとカンペを抱きしめながら泣き始めた。

皆さん想像してみてください、2m先に筆談用の画用紙を抱きしめながらメイド姿の女性が泣いています。貴女ならどうしますか?とナレーションが入りそうな空気が漂っていた。


(ふっ…私なら…)


と自家発電的脳内ナレーションを聞きながら、思いっきり自分の頬を引っぱたいた!!


パチーン!!


「うご!いだああ!!」


やはり自分の口からも悲鳴が漏れたが、その結果、泣き崩れているメイドは思いっきり吹っ飛ばされた!痛みに堪えて私はベッドに立ち、その吹っ飛ばされたメイドを見下ろしながら


「甘ったれるんじゃあないわよ!!労基?(労基ってなんだろう?)そんな何か…公共機関の類はもう閉まってます~!明日は土曜ですから休みです~!公務員の勤務時間の厳粛さを舐めるんじゃあないわよ!!そもそも『レッスン1!敬意を払え!』よ!!『出来ない』と5回言ったら、またぶっとばす!!」


とブラック企業の社長のような言い草を倒れて動かないメイドに投げつけた!するとメイドはプルプルと震え這いずりながらカンペに何かを書いてもぞもぞとそれを掲げた。私はフン!と鼻息を荒くしながらその文字を読んだ。


『相談ホットラインは土日祝日 営業してます…』


と震える汚い文字で未だ反抗的なことを訴えるメイドだった。その言い草に私は


「…そもそも私、アンタを雇ってすらないけど?というか、私の体にいるんだから家賃払って?」


と冷酷に言い返した。そこに微塵も容赦はなく、鋭い刃物のような切れ味のある現実を叩き込んだ!


…どうやらこの一言で試合終了のゴングなったらしい。1ラウンドOK勝なのだろう。メイドはそのまましくしくと(鬱陶しく)泣きながら目の前2mの位置に正座していた。そのボロボロの様に少しだけ私は心を痛めてしまい、


「(鬱陶しいから)もう泣かないでよ…それはそうと、アンタ、名前は何ていうのよ?」


とため息をつきながらも優しい声を掛けてしまった。するとメイドはパアァと表情を明るくしてカンペに書き込んで満面の笑みでこちらに見せてきた。


『【冥途(めいど)】といいます!』


「まんまじゃんか―――!!!そこはせめて女中だよ――!」


と夜の始まりの時間に私の壮大に突っ込む声が自室内に響くのだった。


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