第13話

午後からは個別相談会。それまでは昼休憩。萬田と大介は商店街事務所の隣の部屋に入り、商店街の役員からもらった弁当を持って各々椅子に腰掛けた。

「お疲れ様。さあ、食おうか。」

サッサと食べ始めた萬田を横目に遅れて入ってきた蓮音は、勢いよく窓を開けた。

「大介、お前汗臭いねん!こんなんじゃ食う気失せる!」

蓮音は思いっきりしかめっ面をした。慌てて大介は部屋の隅に移った。

「あ、弁天様、すんません。」

「はあ?主様がこんなところに来るわけねえやろ、この鼻毛野郎!」

蓮音はスカートなのに構わず大股を広げ!まるでオッサンのように弁当をモリモリ食べ始めた。あまりのギャップに箸を持ったまま大介は口をアングリ。おいおいと蓮音をなだめた萬田は、モグモグしながら大介へと顔を向けた。

「あんな、前に本物の弁天様が来られた時があってな、その時、弁天様のフェロモンに男が集まりすぎて、えらいことになったんや。だからこういうイベントは基本、白夜が出るんや。」

「主様のためじゃなかったら、誰がすき好んでムサイ野郎と握手なんかするか!」

「握手?」

「…あー、イベントの後、白夜は毎回蓮音会の野郎たちと握手会があるんや。」

ククッと笑いをこらえながら萬田が説明してくれた。そう言えばと大介は握手会が終わった直後を思い出した。


 握手会の時、蓮音のファンと思しき男たちはチラシとティッシュの列に並ばず、少し離れたところで固まっていた。

何、してんねん?

大介は首を傾げたが、そのまま目の前に並んでいるチビッコ達と握手を開始。しばらくして握手会が終わるやいなや男たちは蓮音の前に列をなした。

「はい、順番ね。並んで並んで!」

会長の黒丸や幹部らしい男数人がファンの男たちを整列させている。男たちは順番に蓮音の前に行き、握手。そして蓮音は何やらティッシュの裏に文字を書き、笑顔で渡している。時には一緒に写真も撮っている。

「萬田さん、あれなんすか?」

「あれは〇〇さんへってサインしてんねや。」

「ティッシュにサイン?」

サインしてもらったティッシュを渡された男達は一様にかなり嬉しそう。胸に抱きしめる輩もいる。


「なんか怖いですね。上白川さん、大丈夫なんすか?」

「大丈夫やで。コイツらは蓮音会の奴らやから。」

「蓮音会ってなんですか?こんなの、よく上が許しましたね。」

「そら、許すで。蓮音会の奴らは上白川さんの一言で、いつでも動く兵隊なんや。まあ平たく言えば上白川さんの協力員達というわけや。」

ふふんと鼻で笑う萬田の言葉に大介は驚いた。

「いや、でも中にはストーカーになる奴とかも出てくるんちゃいます?そうなったらまずいでしょ。」

「それがな、そうならんようになっとる。会長がな、弁天様の眷属なんや。」

会長の黒丸は昔、弁天様に懲らしめられて改心し、弁天様の眷属になった黒蛇の元邪神。今では蓮音会の会長として蓮音の役に立ちそうな新たな会員を選別し、スカウトする役目をしている。


大介が目を白黒させているうちに休憩時間が終了。

「萬田さーん、烏丸さーん個別相談会の方、お願いします。」

虎ん君から着替えた大介は萬田と個別相談会のブースへ移動した。場所は先ほどの特設会場から離れて少し奥まったところ。衝立ての後ろに折りたたみ長机を挟んで両側にパイプ椅子が三つずつ置いてある。

「こちらでお願いします。」

案内の商店街のスタッフがメモとペンを大介に渡してくれた。


 萬田と大介がブースの椅子に腰掛けてスタンバイ。ところが誰も相談に来ず、閑古鳥が鳴いていた。

「誰も来ないですね。」

「それだけ困りごとがないってことやろ。来ないほうがええやん。」

衝立ての隙間から見えるイケメンの萬田に気づいて立ち止まる女子は多数。目が合うと萬田が微笑んで立ち上がる。

「ご相談はコチラです。」

頬を染めて立ち止まる女子は、その一言で我に返り、恥ずかしそうに会釈して立ち去ってしまう。先ほどからこれの繰り返しである。


「そういや、上白川さんは来ないんですか?」

「白夜はそろそろ来るで。アイツの気配してきたからなあ。」

「気配?」

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