第12話
なんでこんな事になっとんのや?
商店街の中に設けられた仮設舞台の上で大介は萬田にねじ伏せられていた。
「皆さんはこんな風にできないので防犯には気をつけてくださいね。」
一度見たら忘れられない上白川蓮音の微笑み。署外にファンクラブが勝手に作られ、防犯教室等、上白川蓮音の姿を見ようとする追っかけが一番前の席にずらりと並ぶ。蓮音命と書かれたお揃いの真っ赤なハチマキに蓮音の顔がプリントされたお揃いのウチワを両手に持ち、蓮音のトークの邪魔にならないようファンクラブの皆様が規則正しく揺れている。
その男たちの前で先ほど、腹巻にモジャモジャのあごひげ、大きく鼻毛まで描かれ、唐草模様の風呂敷づつみを背負った大介が泥棒役として舞台に上がった。2、3度抵抗してから大介は萬田に組み伏せられた。
「おまわりさーん、泥棒を捕まえてくれてありがとう!」
蓮音の鈴を転がすような甘い声がして、イケメンの萬田がニッコリと微笑む。舞台を見ていた女性達が老いも若きも一斉に赤くなる。
「次は犯罪に遭わないためにはどうするかについてご説明しますね。ではおまわりさん、泥棒役さん、ありがとうございました。」
蓮音の発声で萬田と大介は立ち上がり、客席に敬礼して舞台袖に下がった。
「はあ〜、お疲れ様でした。早うこの鼻毛落とさんと!」
大介は濡らしたタオルで顔をこすろうとしたが暁に腕を捕まれた。
「鼻毛なんか後や。上白川さんが喋り終わるまでに虎ん君にならんと!」
「で、でも早う落とさんとこの鼻毛…」
有無を言わさず暁は泥棒役の格好のままの大介を虎ん君の着ぐるみのある部屋へ押し込んだ。
「チラシとティッシュは俺が準備しとく。着替えたら速攻来い!」
暁はそれだけ言うと階段を駆け下りた。
「なんか、よくわからんけど早く虎ん君にならなアカンのか…」
戸惑いながらも大介は急いで着ぐるみを着た。早く行かねばと焦るものの、着ぐるみは見えている範囲が小さく、慣れない大介はヨタヨタとチラシとティッシュ配りの場所にやって来た。急いだつもりだが既に親子連れが何組も虎ん君を待っていた。
「お待たせしました。虎ん君です。」
蓮音が天女の笑顔で紹介する。
隣で笑顔を振りまいていた萬田は棒立ちしている大介の耳元に口を寄せた。
「チラシとティッシュは俺が配る。お前のことは上白川がフォローするから手を振ったり、子どもや親と握手せえ。」
大介が虎ん君をかぶったまま横を見ると蓮音がいつの間にか隣に立っていた。
「虎ん君でーす…」
両手を振って挨拶しようとした大介は蓮音にお尻をつねられた。蓮音は虎ん君の首元を掴むと大介にだけ聞こえるように小さな声で耳打ちした。
「シー!お前が声出したら虎ん君のイメージ崩れるやろ。」
三白眼にドスのきいた低い男の声。先ほどまでの鈴を転がすような天女の美声はどこへ。
大介は蓮音につねられたり、こづかれたりしながらも無事握手会を終えた。
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