第6話 ディーナのおへやで、ひみつはっけん!

 部屋の真ん中に進み、ぐるりと見回した。

 棚には本がずらりと置かれ、たぶんディーナは読書家なんだろうなとわかる。


 クローゼットを開けると、色々な種類のドレスや帽子、靴がずらり。特に、ショール? が多くて、もしかしてコレクションしてるのかもしれない。


 底板に小さな箱がいくつか並べてあって、それぞれに小さなとんがり帽子みたいな形の、粉を固めたようなものが何本かずつ入っていた。高さは私の指くらいで、箱ごとに色が違う。

(何だろうこれ。あ、お絵描きするもの?)

 紫色のを取り出してみると、スミレみたいないい匂いがする。

(置いていかれたんだもん、これであそんでもいいよねー)

 私は一つ取り出してから、クローゼットを閉めた。

 クローゼットの、何の装飾もない木の扉。

(よし、この扉に描いてあげよう)


 まずは、牛だ。ぴーっと線を引くと、とても描きやすい。やっぱりそういう道具だったんだろう。

 草と花も描いて、こっちの方に小屋があって……扉だけじゃ足りないな、壁にも書こう。

 紫色のとんがり帽子はどんどん小さくなり、小屋の後に馬を描いたら、もう描けなくなってしまった。


(これくらいでいいか。うん、じょうずに描けた)

 満足して、私はクローゼットに背を向けた。


 向かいの壁にも扉があったので開けてみると、伯爵の部屋と同様、寝室と続き部屋になっていた。白と水色が基調になっていて、落ち着いた雰囲気だ。

 伯爵の寝室はさらに隣の部屋に行く扉があったけど、ここにはない。


「えーい!」

 私は、ディーナのベッドにうつ伏せに飛び込んだ。ぽよん、と軽く身体が浮く。素敵な感触だ。

 ごろごろごろごろ、と転がり、仰向けになってストップ、天井を眺める。

(もっといたずらしてやろっと。何がいいかな、あのショールを全部もってきて、このベッドにぐるーっとカーテンみたいにしちゃおうか。それとも……うーん……)


 ベッドはふわふわで、とっても気持ちよくて。

 私はたくさん遊んだ後で。

 つまり、だんだん……眠くなってきて……




 カチャッ、と扉の開く音。

(うーん……)

 うっすらと目を開く。

 部屋は暗い。どうやら眠ってしまい、その間に日が落ちてしまったらしい。


 寝室に、ランプを持った誰かが入ってきた。ランプをチェストの上に置く。

(あ。ディーナが帰ってきたのかな)

 いつの間にか、私はベッドの上掛けの中にもぐり込んでいた。小さいから、ディーナ(たぶん)は気づいていないようで、がさごそと服を脱ぎ始める。


 目をこすりながら起きあがった。

「ディーナぁ?」

「えっ」

 びくっ、と人影が動いた。

「プ、プティ!?」


 淡いランプの光に浮かび上がったのは、やっぱりディーナの顔だ。目を見開いている。

 腕に、脱ぎかけの服が絡まっていた。その服を一瞬引き上げて胸を隠そうとして、はぁ、とディーナはため息をつきながら力を抜いた。

「……あー。何でここにいるのか知らないけど……バレちゃったか」

「ばれちゃ? なにが……?」

「何って」

 腕を抜いて、服をベッドに放り投げる。

「驚かないの? 私が女ではない、ってわかって」


 うっすらと見える、露わになった上半身は。

 細身ではあるけれど引き締まった、男性のものだった。いつも

喉元まで服で隠れているけれど、今は喉仏も見える。


 まだ眠い私は、ぼーっとしながら首を傾げた。

「? ディーナ、ずっとおとこのこでしょ?」

「知ってたの?」

 ディーナは目を丸くして、そして笑いながらベッドに腰かけた。私の頭を撫でる。

「そっか。さすがは妖精さん」

 撫でられて気持ちいいし、低めの柔らかい声も気持ちいい。私はまどろみながら答える。

「おんなのこのふり、してた? どーして?」

 彼女、いや、彼は、目を逸らした。

「……秘密」

「ふーん。はくしゃく、しってる?」

「お父様は気づいてない」

 ディーナは首を横に振る。

「私ね……この家の養子、ええと、養女になったの。女の子として、この家に来た。今まで誰にもバレてないと思う。これからも、内緒にしたいんだ」

 改めて私を見たディーナは、すらりとした人差し指を唇に当てた。

「プティも、内緒にしていてくれる? いいものをあげるから」

「いい、もの……」

「今日は町で、プティのものを買ってきたんだよ」

「かいもの……いきたかっ……」

 まぶたが重い。

「あれ、また寝ちゃうの? しょうがないな、プティはここにいるってカイラに知らせてこないと」

 ディーナがもう一度、服を着ているようで、ごそごそと音がする。

 私は再び、ぐっすりと眠りに落ちた。


 もう一度目が覚めたのは、明け方のことだ。

「……う……うう……」

 うめき声がした。


 はっ、と起きあがる。

 隣にディーナが横たわっていて、私はその脇に収まって寝ていたようだ。

 ディーナの目は閉じていて、まだ眠っているみたいなんだけど、苦しげな表情をしている。

(わるいゆめをみてる? ……あ)

 私は、ぱちん! と右目をつむり、左目だけでディーナを見た。

 すると。

(いた)

 ディーナの耳元で、何かささやいてるヤツがいる。小さな黒い姿、翼が生えているみたい。


《こらっ、ナイトメアデモン! どきなさい!》

 私はパッと後ろ向きになって手をつくと、両足でその姿を蹴り上げた。

 ぎゃっ、と悲鳴を上げてナイトメアデモンが飛び退き、そして悔しそうに空中に消えていく。


「……っは!」

 ディーナが目を開き、パッと起きあがった。寝間着の胸元を握りしめ、荒い息をつく。

「はぁ、はぁ……」

「ディーナ、だいじょぶ? こわいゆめ、みてた?」

「あ、ああ、プティ」

 私を見てから部屋を見回し、ディーナは前髪をかきあげた。

「うん……。嫌な夢を、このところ毎日……って、えっ、プティはどうして悪い夢を見てたってわかったの?」

「『ないとえまでもん』いたから。ええと、ようせい。めいっ、しておいたよ」

 微妙に名前を間違った気がするけど、まあよし。

「妖精のせいだったんだ!? プティが追い払ってくれたの?」

「そだよ」

 エヘン、と胸を張ると、ディーナは私を優しく抱きしめた。

「ありがとう。すごいね、プティは。……ねえ、昨夜は寝ちゃったけど、話をしたのは覚えてる?」

「ん? ひみつのこと?」

「そう。お願い、私とプティだけの秘密にしてほしいの」

 私の顔をのぞき込むディーナの瞳は、まるですがりつくような色だった。

 私は、イタズラは好きだけれど、誰かを泣かせるのは嫌い。秘密をバラしたら、きっとディーナは泣いてしまうだろう。

「わかった、ひみつ! まもる!」

「……ありがとう。本当に」

 ディーナは微笑み、そしてもう一度、私を抱きしめた。


 二人とも起きてしまったので、少し早いけど牧場に行くことにした。

 寝室を出たとたん、「わあっ!」とディーナは声を上げる。

「なに、この絵……昨夜は暗くてわからなかった。こら、姫? あなた、お香で壁に絵を描いたのね⁉」

 私は首を傾げる。

「おこう、ってなに?」


 後で聞いたところによると、あのとんがり帽子は、先っぽに火をつけるといい香りがするやつらしい。絵を描くものではなかったのだ。

 ディーナには、めっ、と叱られた。でも、お香は粉でできてるから、ブラシでこするだけで綺麗に落ちたとかで、あまりきつくは叱られなかったけど。

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