第2話 ヤベー女 綾乃雀
「う! うちと、付き合ってください‼」
「……へ?」
放課後の屋上。澄んだ青空の下で、俺こと
告白してきた相手は、同じ一年生の
雀は赤髪のショートヘアに深紅の瞳がトレードマークの大変可愛らしい女の子で、その華奢な容姿に見合わぬ突出した双丘もまた彼女の魅力の一つと言えるだろう。そんな雀は誰にでも親しく、気さくな性格から学校内では随一のギャルとしてかなりの注目を集めている女子生徒でもあった。
要は〝オタクに優しいギャル〟なのである。
しかし俺は学校一のギャルこと雀に告白されているこの現状に、難解を窮していた。
その理由は単純明快。
「いや俺……〝彼女〟いるんだけど……」
澄んだ青空が、照り付ける太陽が、二人だけの世界へと誘い、包み込む。
……どうして俺は告白されているのか。
全ては、一時間前に遡る──
※
終業式、一週間前。
期末テストも終わり、気の緩みから夏休み気分になって浮かれる生徒が続出する頃。
俺は学校の自クラスの一番後ろの窓際の席で、机に突っ伏していた。
「はぁ~」
ヒンヤリとした木製の机の感覚に、息を吐く。次に机の内部に手を突っ込み、鉄の冷たい刺激を腕全体で感じ取る。
あぁ……生き返る……。
夏場はやはりこれに限ると、俺はオットリとした顔でだらけた。
そこへ、スタスタと足音が近づいてくる。俺は少しだけ顔を上げ、足音の方を見た。
「賢人氏は、相変わらずマイペースですなぁ」
俺の名を呼んできたそいつは、猫背の丸眼鏡に低めのポニーテールという、男子生徒にしては少々特徴的な格好をしていて、一見普通のオタクに見える。だが注視すれば、精悍な顔立ちをしている少年であることが窺えた。
「うっせ。
俺は眼前の少年こと
そう、俺は知っていた。順平は、実はイケメンだという事を。そしてその容姿を『オタク』という皮で隠している事も。
順平は少し驚いた様子で目を瞠った。
「おっとっと、それは口に出さない約束ですぞ。……ブフッ、それでは彼女さんに嫌われてしまうでござるよ?」
「人をオタクカモフラージュに利用しておいてよく言うわ」
「フフッ……人はそれを親友と呼ぶのです」
「はいはい」
教室の隅っこで、男子二人の談笑が密かに盛り上がる。
順平との言い合いはこれが通常運転だ。無論、俺だって歪な言い合いだという事は自覚している。
しかし順平はイケメンであることに悩まされて人付き合いに疲弊していて、俺も俺である事情によってぼっちの身であった。つまりこの関係はクラスで浮かないようにする為の、お互いがお互いを利用し合う共同戦線。名付けるなら、そう──親友作戦とでも呼ぶのだろう。
親友である順平はしばし面白そうに微笑を浮かべ、やがてポケットからスマホを取り出し、画面を俺に突き出してきた。
「それより、これを見てほしいでござる」
「ん? これって……」
スマホには谷間を強調する際どい服を着た蠱惑的でセクシーな女性キャラと、小柄で愛らしい幼女キャラが映っている。そのすぐ下の方には『限定‼』と『十連ガチャ』という文字がデカデカと記されていた。
それらを見て、俺はいつものことかと悟る。
「あー、例のソシャゲのPU(ピックアップ)ね」
「えぇ! その通り! しかも今回は推しであるエミリタンのPU‼ これを逃す手はありませぬ!」
「へぇー、じゃあそのキャラ引けばいいじゃん」
「クッ……ですが今回のもう一人のPUであるクロ姉はメインストーリーで大活躍し、話題沸騰中のキャラ……! 正直、こちらも逃すには惜しいのでござる……!」
「はぇー、じゃあ両方……って、そうはいかないのがソシャゲだったか」
俺はガチャ画面を凝視し、ガチャ石が一天井分しかないのを確認する。
順平曰、このソシャゲは最高レアの排出率が非常に悪いらしい。加えて、今回は限定ときた。つまり相当な幸運でもない限り、かなりの長い期間、片方のキャラを全裸待機しなければいけないということを意味しているわけだ。
順平は顔を顰め、葛藤する。
「……ッ、クロ姉を選べば、ユーザー同士で盛り上がれる! だがそうすれば、エミリタンを裏切ることに……! しかしエミリタンを選べば、クロ姉が……!」
俺は苦悩する順平をジト目で見据えて、オタク生活楽しんでんなーと、茫然と思った。すると脳裏に、悪魔の発想が過ぎる。
「あ、じゃあさ、天井する前にどちらかのPUキャラを引けばよくない?」
「なっ⁉ それが難しいからこうして悩んでいるのですぞ! 賢人氏!」
「まぁまぁ、でも順平はそのソシャゲに骨を埋めてるんでしょ? だったら、覚悟決めなきゃオタクの名が廃るってもんじゃない?」
俺の悪魔の囁きに、順平は明らかな動揺を見せる。
「……そ、それは、そうでござるな。……っ! 分かりましたぞ! であれば、お見せいたしましょう!」
順平は覚悟を見せ、天高くスマホを掲げた。めっちゃちょろい。
「この順平! 必ずやクロ姉とエミリタンをお迎えさせてみせましょう‼」
「おうおうー、その意気だぞー」
不相応な俺のやる気のない鼓舞と悪魔の笑みには気付かず、順平はスマホを構える。
「では、推して参る! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
続けて豪語し、勢いよく十連ガチャを押す。そして──
「……チーン」
──意気消沈して倒れ込む、灰色の順平だったモノが出来上がった。
「うわー、すっごい爆死じゃん。逆に才能あるよ、君」
倒れ込む順平の手に収められたスマホには、天井きっちりのガチャ画面が映っていた。
所持ガチャ石、ゼロ。
天井、マックス。
倒れ込む、オタク。
まさに芸術作品である。
俺は天井の頂に辿り着いた順平だったモノを見据えて、微笑みを浮かべる。
突如、ポケットが振動した。
「お、きた」
陰キャである俺には、順平以外にまともな友人はいない。そう、〝友人〟は。
俺は掛かってきた電話の名前を見て、口角を上げる。途端、身体が高揚感に包まれる。他でもない、『彼女』である矢野楓からの電話に俺は胸を躍らせた。
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