第17話 最後のキス

空港へ向かうまでの時間は、残りわずかだった。


部屋の時計が、無情にも刻一刻と進むのを、二人は無言で見つめていた。




「……あと一時間、だね」




エミリーが、小さな声でつぶやく。


彼女の青い瞳は少し潤んでいて、けれど無理に笑顔を作っていた。




「……なぁ」




シュンスケは、ベッドの端に腰を下ろし、そっと彼女の手を取った。




「まだ……時間、あるよな」


「……うん」




二人は見つめ合い、ゆっくりと額を寄せ合った。


肌が触れるだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。


短い時間でもいい。


最後の最後まで、この温もりを感じていたかった。




「……抱きしめても、いい?」


「……こっちこそ」




彼女はそっと、彼の胸に顔をうずめた。


小さな背中を抱きしめると、細い肩が小さく震える。




「大丈夫か……?」


「……泣かない、って思ってたのに」


「……」




彼はそっと髪にキスを落とし、背中を優しく撫でた。


彼女は小さく息を吸い、そして見上げる。




「ねぇ、シュンスケ……最後に、触れてほしい」


「……えっ」


「大丈夫。ちゃんと飛行機、間に合うから」




笑いながら、けれど涙がこぼれそうな笑顔で、彼女はベッドに腰を下ろした。


シュンスケは息を飲み、彼女の前に膝をつき、そっと頬を撫でた。




「……本当に、これで最後か」


「ううん。最後じゃないよ。だって、また来るもん」


「……そうだな」




小さな唇に、そっとキスを落とす。


彼女の腕が首に回り、引き寄せるように抱き寄せる。




(ああ……やっぱり、好きだ)




ベッドのシーツの上で、彼女は静かに寝転がり、彼を見上げる。




「優しく、してね」


「……分かってる」




彼はそっと彼女の額にキスをし、頬にキスをし、首筋に唇を滑らせた。


エミリーは小さく震え、柔らかく笑う。




「くすぐったい……」


「……我慢して」


「うん……」




彼女の細い指が彼の背中に絡み、柔らかな吐息が耳元に落ちる。


シュンスケは彼女の腰をそっと抱き寄せ、唇を重ねた。


深く、熱く、名残惜しむように、何度も、何度も。




「んっ……シュンスケ……」


「エミリー……」




互いの名前を呼び合い、額を寄せ、目を閉じる。


肌が触れ合い、体温が混じり、心臓の音が静かに重なる。




「好きだよ……ほんとに、ほんとに好き……」


「俺も……お前が、好きだ……」




彼女の足がそっと彼の腰に絡み、甘い声が小さく洩れる。




「ん……あぁ……」


「大丈夫か……?」


「うん……大丈夫、優しいから……」




優しく抱き寄せ、ゆっくりと体を重ねる。


彼女の肌は柔らかく、抱き締めるたび、壊れてしまいそうなほど繊細で、それでも彼を強く求めていた。




「シュンスケ……シュンスケ……」




耳元で何度も名前を囁かれ、胸の奥が熱く締め付けられる。




「俺も、いるよ……ちゃんと、ここにいる……」


「うん……わかってる……」




ゆっくりと動き、甘い吐息が交わり、体が徐々に熱を帯びていく。


ベッドのきしむ音さえ、どこか切なく、優しく響いていた。




「ねぇ……もう、いかないでって、言ってくれたら……」


「……」


「だめだよね、ちゃんと帰らなきゃ……」


「……」




彼女の瞳に涙が光る。


シュンスケはそっと額にキスを落とし、指を絡め、深く体を重ねた。




「また、絶対会おう……」


「……うん……!」




彼女は小さく泣き笑いし、最後の時間を全力で抱きしめてくれた。


名残惜しむように、何度も唇を重ね、何度も名前を呼び、何度も強く抱き締めた。




最後の絶頂を迎えたとき、彼女はそっと彼の胸に顔を埋め、震える声で呟いた。




「ありがとう、シュンスケ……一生、忘れない……」


「俺も……」




ベッドの上、二人は静かに抱き合い、深い呼吸を整えていた。


外の光が少し強くなり、出発の時間が近づいていく。




「……行こうか」


「……うん」




シュンスケは彼女の髪をそっと撫で、最後に深く、長いキスを落とした。




「ありがとう、エミリー……来てくれて」


「ありがとう、シュンスケ……私を好きになってくれて」




手を繋ぎ、二人は静かに立ち上がった。


この短い物語が終わる瞬間まで、全力で互いを愛した。


だからきっと、また会えると信じて。




(続く)





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