第32話
≪――あまりにも衝撃的なこの事件は、日本を越え世界各地で報道されております。天羽グループの社長子息が殺された犯行現場である本社前には、今も多くの報道陣が駆けつけている状況です。≫
≪――先程、被害者の父親であり世界を股にかけ事業を拡大し続けている天羽グループ社長からは「大変遺憾な出来事であり、犯人たちに対する怒りの念が湧きあがってくる。残酷な犯人たちを、一刻も早く捕まえてほしい。」と、詰め寄った数人の報道陣に心中を吐露したとのことです≫
≪――監視カメラに犯行の様子が最後まで映っていたと警察から発表され緊急指名手配中である女優の橘今日子、プロ野球選手として活躍していた近江彗、つい先日試合を終えたばかりでもあるJリーガーの近江珀、弁護士の長峰頼…全員が有名人である4人の容疑者たちの行方、そして、その繋がり、殺人の動機などは、未だ見えてきておりません≫
深い霧に包まれた山奥。
上下左右、遠方からではどこから確認しようとも見つけられない屋敷。
隣には、四角いコンクリートで包まれた異質な倉庫。
「…どうせ“繋がり”なんて、一生、公にはしないくせにね。どの局も、似たような報道繰り返してるだけじゃん。」
小さなスマホ画面、ひとつだけ起つ電波から流れてくる臨時ニュースを眺める女が、冷たく嗤った。
「…確かにな。白々しい。」
膝を屈め小さくなっているその女の隣で、腕を組み忌々しく息を吐くのは、髪を明るいキャラメル色で染めている男。
「全部、設置し終わったよ。」
「それにしても…ダイにこんな能力があったとはね。お見逸れしました。」
そして、両腕を上げ延びをする男と並んで苦笑している男が、屋敷の奥から姿を表す。
「てか、理数系得意なJリーガーとか最強だよな」
「こら、ハヤト…もう。おつかれダイ、きーちゃん。」
「いいよ、マリさん。このくらい。」
大きな玄関扉、入り口で2人を出迎える男は可笑しそうに肩を揺らし、女は労いの言葉をかけた。
「そろそろ、さてと…って感じかな。」
「うん。スイッチ、どのタイミングで押せばいい?」
「きーちゃんの、好きなときに。」
「じゃあ…ダイ、ハヤト。やり残したことは?」
シンプルに作られたスイッチを手にした男が、女とのやりとりに耳を傾けていた2人に顔を向ける。
「ねえよ、今さらそんなもん。」
「俺も、ハヤトと同じ。大丈夫。」
「マリも?」
「もちろん」
「分かった……それじゃあ、遠慮なく。」
「……ありがとう、きーちゃん。」
最後に、女に向かって優しく微笑んだ男は、ゆっくりとスイッチを動かした。
“手作り爆弾”を大量に置いた屋敷の全てが、炎で覆われる。
爆音とともに破裂し、微塵に散っていく。
赤く揺れる光を、立ち昇って行く灰色の煙を。
見届けることが出来た人間など、誰のひとりも、いなかった。
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