第26話

“ダイ”“ハヤト”“キイ”

マリはいつも、人の名を呼ぶとき、短く低く発音する。

昔からの、癖。




けれど。



わずか7歳だったマリを連れ去り

どの大人の目にも触れさせぬよう屋敷の1室に閉じ込め


マリに嫌われぬよう大切に扱い


マリの心の拠りどころである俺とダイとハヤトにだけ

会うことを許していた日々が終わろうとしていた、あの日。



あんな大人に傷つけられるくらいならと、

先ず自らが悪魔になろうと決意し、実行した、あの夜。



その翌日から。


“きーちゃん”と。


その名を口にするときだけ、変わっていた。




そう呼びかけるときにだけ、

マリは、

声色にとびきりの柔らかさを含ませるようになっていた。





無意識なのか意図的になのか…けれど、たぶん。

賢い彼女は、後者の理由で、そうしている。




強い彼女の優しい変化に、俺はずっと、甘えたままだ。












だから、こそ。

この世界を終わらせる役目は、俺が、引き受けよう。

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