第25話

視界の端に流れる景色が、緩やかに移り変わっていく。




「…今日、ハヤトに会った。」


「…いつ?」


「午後になってすぐ」


「…そっか」


「相当、参ってきてるみたい…って、まあ、そりゃそうか。当然、だけど。」


「…うん。」


「……………」


「……………」


安易に想像できる光景に、ハンドルを握る手に力が加わった。


流れる沈黙。重々しい空気を拭おうとしたんだろうマリが、備わっているテレビのスイッチを点ける。





≪―――真夜中の悲劇、殺された一家、犯人が残した驚愕の痕跡に迫る!――そして、20年前に起きた神隠し。唐突に消えた4人の子どもたち。惨殺されていた、子どもたちそれぞれの親族。当時の現場に足を運び、詳細を再現した!――日本で起きた未解決事件ファイル、放送は来週、夜7時!≫


車内とは正反対に明るい光、明瞭なアナウンスが流れた。





「…懲りないね、国も。そんな予防線張らなくても、あんたたちの犯罪は完璧に出来てるし。小心者かよ。」


「……………」


「まあ…天羽(あもう)家も大概だけどね。変態凡蔵長男が惚れた幼女を誘拐するために国を巻き込んで。たまたま一緒にいた3人も道連れにして興味本意で奪って。子どもの名前も人権も自由も家族も、何もかも、消し去って。地域とか先生たちにお金払って脅して従わせて、黙らせて。戸籍弄ってまで、ダイとハヤト兄弟にして、バレないように。」


「…マリ。」


「大っきくなったら価値が消えちゃったとかふざけたことほざいたなと思ったら有名人になる、顔が知られる世界に飛び込ませて、自分の会社の事業の潤滑剤にして。身体を、使わせて。国だって…っ怪しまれないために“神隠し”とか都市伝説とかさっきみたいな番組メディアに特集させて、私たちの子ども時代の写真を別の誰かに差し換えて!何あの写真…どっから持ってきたの…っ!?」


「…マリ、分かった。もう、いいから。ごめん…ごめんな。」


「…っ…なんできーちゃんが謝るの!?きーちゃんもハヤトもダイも、被害者だよ!ただの、被害者!悪くないんだよ!」


胸糞悪い予告を静かに見届けたマリは、薄く笑う。


荒くなっていく呼吸、拳を握り自身の膝を刻むように叩いていく力が強くなっていく様子に、車を路肩に止めた。



華奢な肩を擦り耐え難い叫びを続ける姿を宥めれば、色の引いた小さな頬に、ぼろぼろと剥がれ落ちるような涙が伝っている。





「…マリだって、被害者だよ。お前は、何にも悪くない。」


「そんなわけない…私がいなかったらみんなは「マリ!」


強く瞼を閉じたまま、血が滲むほど噛み締めている唇。雁字搦めになり発作のように言葉を続けるマリの両腕を掴んで、正面に向き合わせた。





「いい加減にしろよ…俺もハヤトもダイも、そんなこと一切思ってない。お前は、被害者だ。非、なんて、微塵もない。」


「…っ……」


「…馬鹿だな、マリは…」


抑えきれてない、しゃくりあげる嗚咽。口元を手のひらで覆うマリを引き寄せ、抱き締める。





「…きい、ちゃん…」


「うん。いいよ。マリ。分かってる。」


「……ごめ、ん…」


「帰ってダイにも、言わなくちゃね。それで、3人でごはん作ろう。ハヤトの大好物にする?辛口ビーフカレー。きっと、ハヤト、朝方には帰ってくるだろうから。みんなで、迎えて。たくさん、食べよう。」


「…うん。」


「…それでさ、」
























もう、全てを断ち切って。

腐ったこの世界を、終わらせよっか。

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