第3話
◇ ◇ ◇ ◇
≪…ようですね。1日でも速い解決を、祈りましょう。では、続いての事件です。これは、20年前に起こった神隠し。唐突に消えた4人の子どもたちの安否は、現在も尚、確認されておりません。≫
街中にあるスクリーン、映し出されている番組を、スクランブル交差点内を急ぐ者たちは見向きもしない。
信号待ち、キャップ帽に押し込めているロングヘアーが溢れないよう深く鍔を下ろした。ついでに、マスクの位置をも正す。
「“日本で起こった未解決事件ファイル”ねえ~…こうゆうのたまーに特集されるけど、見つかった試しがない。」
「…ふふっ。確かに。」
「でしょう?けどねぇ、これ言うと娘や家内に叱られちゃうんだよ~『父さんは冷たい』って。けれど、お客さんとは気が合いそうだ。」
長い停止時間に痺れを切らしたのか元々コミュニケーションを計るタイプなのか、人懐こい笑顔で頬いっぱいに皺を作った運転手が声を弾ませる。
的確過ぎる感想に、心の底から可笑しくなった。
ちらりと前方を確認すると、大群の動きが更に速まったことが分かる。点滅を始めた青緑色に踊らされて。
「それにしても…お客さん、どっかでお会いしました?」
「いいえ。今が、初対面ですよ?」
「だよねえ…でも、なーんか、初めて会った気がしないなあ。」
「けれど“絶対”、テレビ越しに、会ったことはありますよ?まさに、今も。」
「…へ?」
純真無垢のような運転手の疑問に、そっとマスクを外し微笑めば。
「…ああ!確かあんた、女優さんじゃなかったかい?成る程~そりゃあ見覚えある筈だ」と、狭いタクシー内で声を大にして笑い、楽しそうにハンドルを握り直した。
軽快に、タイヤが回転をはじめる。
車が、動きはじめる。
「これからお仕事かい?」
「ええ、まあ。」
「そうかいそうかい…遅くからご苦労様ですねぇ~」
気遣ってくれたのか、それ以降、不自然なほど静まり返った空気に甘え、フロントガラスに頭を預ける。
「…オダマキ。」
瞼を下ろし呟いた花の名は、誰にも拾われることなく、無情に消え去った。
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