残酷な現実
第2話
日付けが変わる少し前の公園に、人気などない。
あるのは無機質な遊具たちと、生ぬるい温度だけだった。
子どもの頃に遊んだ、なんて甘ったるい記憶など持ち合わせてはいないそこへ足を踏み入れる。
ズキズキと響く痛みに無視を決め込んで、目的である公衆電話に手を伸ばした。
今やもう希少価値な代物となった緑色、規則正しく並んだ数字に触れていく。
何年も何年も、脳裏にこびりつき消えることはなかった番号。
冷たく重い受話器を耳にあて、繰り返し鳴る呼出音に唇を噛み締めた。
今はもう、身体中に感じる痛みよりも、脈打つ心臓の痛みのほうが大きい。
『はい』
長い長い間を得て応じてくれた相手からの、たった二文字の返事に眉間を寄せる。
もう、ダメだった。
もう、限界だった。
「……もしもし」
『………………』
「……あのね、私『だれぇ?』」
頬を伝う幾つかの涙はもう、後を絶たない。
それでもまだ、現実は残酷で。
控え目に、それでいて甘えた女の声が、遠くから届く。
たったそれだけで、向こうの状況は手に取るように理解できた。
『……なんか、切れたっぽい。間違いだって。』
きっと、隣で。
同じ、ベットで。
くっついている彼女へ優しい声で安心させるよう告げたそれを最後に、通話は途切れる。
警告のように鳴る遮断音が、全身に響いた。
相手はもうとっくの昔に、私の存在なんてものは、記憶から削除していたのだろう。
それでも。
相手の頭の片隅に、私の声と存在が残ってはいたのだろうか。
それとも。
本当に誰か分からなくて、間違い電話だと、疑いもなく信じていたのだろうか。
別にそんなこと、考えても意味が無いことぐらいは解っている。
けれどもう、霞みぼやけていく頼りない思考は、働かない。
ふらり、と体が前のめりになって、頭に肩に腕に太股に大きな衝撃を感じた瞬間、意識は途絶えた。
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