第32話
分厚いカーディガンもコートもカイロもマフラーも手袋も、手放なせなくなった12月。
怪しい雲行きの放課後、正門前。
「是澤ちひろさん!僕とお付き合いしてください!」
見ず知らずの坊主頭くんに、思いっきり叫ばれてしまった。深く頭を下げて、右手を伸ばして。テレビ番組でしか見ることないと思っていたあのポーズ。
突然の告白に度肝を抜かれる。隣にいた紗莉も、偶然居合わせた何人かのウエコー生徒も、示し合わせたように目を丸々として時を止めた。
あのですね、坊主くん。制服からして、私の母校の中学だとは存じ上げるんですけどね。気持ちはとっても嬉しいんですけどね。
時と場所と、状況を選んでくれませんか。
おまけで周りの様子も読んでくれませんか。
「随分とまた熱烈ね」なんて、誰よりも早く調子を取り戻した紗莉が言う。その声には明らかに愉しさが混じっていて嫌気が差した。このサディストめ。柊くんとどっこいどっこいだなほんと。
現実逃避のように考えつつ、ぐぐぐ、と重たい首を動かす。振り返れば案の定、いつもの位置でバイクに跨る芽衣がいた。ですよね。うん。こんな時に限って迎え遅れるとか有り得ないよね。分かってる。
はあ、と遠慮なく出したい溜息を押し殺す。再び前を向くも、坊主くんは未だにアスファルトと睨めっこしていた。ていうか冬なのに黒いねキミ。きっと野球部頑張ってるんだね。知らないけど。
微かに唇を開く。
そして「ごめんなさい、」と断りを入れようとした。
その、瞬間。
「無理。」
「え────」
すぽん、と重たい何かで視界が遮られた。後ろから、勢いよくヘルメットを被されたらしい。もうちょい優しさ持とうか芽衣くん。色々と仕打ち酷いわ。
坊主くんの呆気に取られた相槌を確認する間もなく、芽衣に連れられバイクに乗せられその場から離れた。
芽衣の背中を掴みやっとの思いでヘルメットを上げる。泣きそうな坊主くんと余裕で手を振ってくる紗莉に、最後まで見送られながら。
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