第30話
🌈 🌈 🌈
おかしいとは思っていた。
ちひろはともかく、芽衣までしおらしく閉店作業をいそいそ手伝ってくるから。
おかしいとは、思っていたんだ。
────あのさ、兄貴。
────ちひろと俺、つきあってる。
風呂上がり。紗莉ちゃんと同じにした、と地元の土産を貰いながらの、一服中。
準備もへったくれもなく告げられた報告に、顎が外れるかと思った。そのくらい、マジで吃驚した。
「どっ──びゅるえぃしっ!?」
「擬音きっしょっ」
「うん芽衣ちょっと表出ろ?」
思わず飛び出た本音だったのか、いつもの調子感満載な我が弟。俺を貶してくる芽衣の背中を、ちひろが「芽衣!」と慌てて叩く。芽衣も素直に「今のなし」と反省を口にした。
はははは。けどそんなの関係ねぇ。1回くらい思いっきりやりあってもいいって兄ちゃん思ってたところさ。
破壊してきてしまった人格を守るために、とにかく時間をくれと俺は言った。明日の朝、考えた想いを伝えるからと平穏を装って伝える。
不安そうながらも、それぞれ自室に戻っていった妹と弟を見送りながら、ふうと深いため息を吐いた。
うーん。
まさか、まさか。
こういう時が、くるなんて。
小鳥のさえずりがチュンチュンと聞こえてきそうな、清々しい朝。
同じタイミングで起きてきたちひろと芽衣が、机に乗った〝ホールケーキ〟を見て足を止める。似たような瞳で、似たように丸々と困惑している。なんだよその態度。喜ばんかい。
「別にお祝いとかじゃないからな!?」
「あっ、やっぱりお祝いなんだ」
「嬉しくて眠れなくて夜なべした訳でもねえからな!?」
「嬉しくて眠れなくて夜なべしたんだと」
可笑しさを堪えきれないちひろが、口元を手のひらで隠す。からかい口調の芽衣が俺に親指を向けながら、ちひろと顔を合わせる。本っ当に可愛げないカップル。リア充爆発しろ。……嘘だけど。
2人の近くで爆発なんか起こったら、俺は自分の命を投げ打ってでも、助けに行く覚悟だけれど。
そのくらいの覚悟で、2人の子どもを引き取った。育てた。一緒に、育ってきた。
幸せにしてあげたくて。
幸せになってほしくて。
ただただ、それだけで。
幸せそうにケーキを頬張る、甘党な家族を眺める。
こっそり流れそうになった涙の理由を考えながら、見られないよう、そっと拭った。
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