第30話
澪の家に泊まり、有り難いけれど濃厚で疲れる接待(主に比沙子さんとの対戦格闘ゲーム)を手堅く受けた。
『えー。晟もう帰るのー?まだ9時過ぎなのにいー』
『いや…もう十分すぎるぐらい帰る時間ですよ。てか、比沙子さん、明日仕事でしょ?いい加減休んでください。』
『ほんとにねえ。比沙子ちゃん、あなたいい加減寝なさい。そんなんじゃ明日サラちゃんとか店の子たちに迷惑でしょ~』
『はいはい…本当、心配性な息子2人を持ったあたしは幸せものですねえ…晟!またいつでも来なさいよ!』
別れを惜しんでくれる美形親子2人に玄関まで見送られた後、真っ直ぐ、公園に向かう。
澪の家から最寄駅までの道のり途中にある、そこへ。
夜10時前の、よく分からないオブジェたちが並ぶ、誰ひとりいない大きな園内の景色は、まるで、4週間前を…そのときは名前も知らなかった≪更級亜依子≫と初めて会ったあの月曜日を、再現しているかのようだった。
――――――――――――――――……
―― 4週間前 ――
比沙子さんが経営する美容室が休日の月曜日、学校帰り半ば強制的に澪に引きつられ澪宅へお邪魔し、その張本人は『眠いから寝るわぁ~あとはよろしく~』とか、鳥肌ものの甘え声で言い残し、とっとと自身の部屋へ引っ込む。
必然的に残された俺が、いつものように比沙子さんとのテレビゲームに夜9時過ぎまで付き合わされた、帰り道。
7月に入ったばかりのその夜は、風がなかったのも伴い、とても蒸し暑かったのを覚えている。
さっきまでいた、モデルハウスのような一軒家も混じっている住宅街を抜け出て数分後。
さわさわさわ さわ さわさわ
頭上から、ただただ静かな、優しい音が届いた。
見上げれば、赤いレンガが積み重なる数メートルほどの壁の上から木の枝が伸びている。その全貌は、分からない。
誘われるように、長く連なっている壁の終わりを目で追い、そこへと向かった。大きな公園の、入り口に。
子どもが好むような遊具などひとつもない、淡々と存在している園内へと入る。いくつかあった、よく分からないオブジェたちを流し見ながら歩いた。
辿り着いた先には、樹齢の凄そうな、大きな柳の木。
その木の下にあるベンチに座ることもせず通り過ぎ、柳の真下に立ちそれだけを見上げていれば、ふと何かの気配を感じた。勢いよく、振り返る。
視線の先には、手を伸ばしても届かないぐらいの距離を保ち“柳の下で立ち止まる俺”の前で“立ち止まるひとりの女”がいた。
目が合った途端に、はっと気付いたように、捲くっていたパーカーの袖を下ろしている。
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