第20話

10時過ぎ着の電車で柳の元に更級亜依子の隣に来るのは4回目、となった夏休み最初の月曜日。




「ん。土産。」



「…晟…あんた暇なの?毎週来てるけどさ」




公園に入りいつものベンチへと向かう前通った自動販売機で購入済みの冷たい緑茶を渡せば、仕様がない。とでも言いたげに亜依子が笑う。



隣に腰かけ、自分用に買った缶コーヒーの蓋を開けた。




「正直。」



「え、暇なの。」




飲みながら横に視線を伸ばせば、いつもの服装。ダークグレーのパーカーを手の甲までしっかり被い、深緑色の缶を僅かに出ている両手指先で挟み回している。



自分の体温が下がることなんて御構い無し、のように


冷やしきって手のひらの感覚を消し去る、ように





 くるくるくる、くる


   くるくる、くるくるくるくる。





「俺まだ16だから。働けても精精10時とかだし」


「働いてんだ。なんのバイト?」


「居酒屋。ホール。」


「店員かー…晟が愛想よく注文とってる姿とかレアだね。」




そのまま、顔だけを俺に向け笑った。




勝手に想像し不躾な感想を述べる歳上に「やるときはやりますよ。俺。ちゃんと。」ふざけながら肩を竦める。



夏特有の生暖かい風が、柳の葉をさわさわと揺らした。






 きっと。



 もっと訊かなければ、


 しっかり疑問を持たなければ、


 きちんと不思議に思わなければ、



 いけない事柄が山程あるなんてことは分かっている。




 …けれど、出来ない。したく、なかった。




 その内、なにかひとつだけでも、


 本当の意味で、更級亜依子に踏み込めば、



 この時間はもう二度と訪れない、と確信していたから。




 亜依子が俺に対し優しい雰囲気で関わりを続けているのは、


 俺が何にも触れないからだと感じていたから。





 ここ で の 戯れ は 時間 は 繊細 な もの



 重要 で 最大 な 相手 の 肝 に 触れて は い け ない

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