第17話

駅へ着くまでの道中は、他愛ない会話だけだった。



駅前で、派手な紫色の自転車に跨る中性的で綺麗な顔立ちをしている澪には道行く奴等の視線が止め処ない。



けれどその渦中にいる張本人は気にもならない様だ。慣れているのか、肝が据わっているのか、何事にも動じない強靭な心臓を持っているのか…定かではないが全て当て嵌るんだろう。





「楽できたありがとな。」


「いーえー。あ、てかさ。」




礼を告げ駅へと入ろうと歩き始めようとした刹那に呼び止める声に「なに」立ち止まれば、



「晟、その“あいこ”ちゃんとやらとつきあってんの?」思い出したように愉しい雰囲気を醸し出し笑う澪。




その様はたまに洋画なんかで観かける新しい玩具を手に入れた悪役の子どもみたいだ。うわ。自分で喩えといてあれだけど、適役すぎ。




「そんなんじゃねえから」


「ふーん。じゃあ晟の片思いかーなんて不憫…可哀想」




ちゃんとした“事実”を述べれば、不憫さなんて欠片も感じてない表情でにやついており。ソイツの足を蹴り上げるも素早く危険を感知したらしく ひょい。と避けられてしまう。




「(だっせー自分。)さっさと帰れ。俺も帰る。」


「うーわっ。ここまでペダルを漕いでやった恩人になんて罰当たりなことを…」


「…それに関してはどーも。」




なんだかんだで、澪のペースに持っていかれる自分に笑えた。







最後の最後に澪は、




「…晟らしいな」


「らしい?」


「好きになった時点でつきあってる奴とは別れてそいつ一色になるお前。“らしい”」


「自分じゃよく分かんねえわ」


「そうか?生真面目だろ、晟。俺の持論に因れば、だけど」


「持論ってどんなだよ」




片足をペダルに持ち上げ、その器用な体勢を崩さないまま、




「こいつの呼び方だよ。」




自身の中学時代から通学手段である、紫色に輝く相棒にぽんぽん。と手を乗せる。





そして、心底愉しそうに、目を弓形に細めた。

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