アタックチャーンスっ!
第3話
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夏の日差しを真っ向から浴びる。
学校指定の白シャツ、肩にあった皺を伸ばしておいた。いけね。清潔感を保たなければ。
ただでさて部活やけしていて、俺の肌は真っ黒なんだから。しかも日本の平均身長の坊主野郎。身だしなみくらいはきちんと、だ。
とある看護学校の前で、ソワソワと弾む心を抑える。けれど、待ち望んでいた彼女が目についた瞬間、そんなものは無駄な努力として終わってしまった。
「こんにちは!」
「……あんたまた来たの?」
「はいっ!もちろんです!」
「いつまで来るつもりよ」
「地球が滅亡するまで……ですかね?」
「シャレにならないからやめて」
お友だちと並んで歩いてくる彼女に駆け寄る。うげ、とあからさまに眉間が寄ったのは……まあ、ご愛嬌ってことにしておこう。
彼女と出会って知り合って、初めての夏。7月。無事に高校生になった俺は、看護学生になった彼女への恋心を変わらず抱いてた。
「……この子、紗莉の知り合い?」
「まあ……うん、そう。ごめん梨杏、今日はここで。」
「うん、わかった。また明日ね。」
2人きりになった。
ただそれだけで、鼓動は高まる。
気を利かして帰ってくださった、見知らぬ“リナさん”に感謝の気持ちを抱えつつ、彼女を見つめた。
しゃかりきな突撃にどんな嫌悪感を現していても、紗莉さんはこうして必ず、俺と向き合ってくれる。
だからどうしても、会いたくなったときには、その衝動が抑えられない。一直線にがむしゃらに、会いに来てしまうのだ。
「今日もかっ飛ばせる勢いで好きです!」
「意味が分からないわ」
「俺にもよく分からないですね!」
「ひねり潰したいアホ加減」
「でもとにかく大好きなんです!愛してます!」
「悪いけど、1ミクロンも響いてないわよ」
「ミクロン……ってなんすか誰っすか」
「………………。」
紗莉さんに恋人はいない。それ以外の情報はあまり知らないけれど、それだけあれば俺としては充分だった。
もちろん、好きな色とか食べ物とか、逆に嫌いなものだとか。プロフィール的なことは、いくらでも何だって知りたい。なんならどさくさに紛れて一緒に食事デートしたりもしたい。まじ夢。
けれど、恋愛に関することは、今は、恋人の有無だけ知っていればそれでよかった。
余計なことは気にせず、嘘偽りないこの想いだけを、伝えていきたかったから。
「……大体あれよ、部活はどうしたのよ」
「今日は顧問の都合で休みなんです!アタックチャーンスっ!なんです!」
「だから意味が分からないわ」
紗莉さんが呆れた息を吐く。その姿さえ美しいのだから、どうしようかと思った。
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