優雨と太陽

第22話

颯星よりも先に背を向けて、あの場を去った。


そして、鍵を回さずとも抵抗なく動かせる玄関を開ける。





「……おかえりなさい。」


「……ただいま。」




複雑に表情を弱め見上げてきたのは、水を飲むほっぺの傍に屈み頭を撫でていた太陽くんで。


相手に頷き答えつつ、年季の入ってきた冷蔵庫を開き中を確認して。





「太陽くん、買い物いこ。」


「え?」


「じゃがいもと玉ねぎ。ない。」


「………………」




足りない材料を確認した後、未だ廊下にいる太陽くんやほっぺを通り過ぎ、部屋へと入った。


相手の反応を確認できずに背中を向けたまま鞄から財布を取り出したと同時、正面に来た太陽くんとの距離は、とても近い。





「……いっしょに、行ってくれる?」


「……もちろん。」


「………………」


「優雨さんとなら、俺、どこにでも行きたいよ。」


「……なによそれ。」


「ただの本音。……ほっぺ、いい子でお留守しててね?」





落ち着き払った声に嬉しさを混ぜる太陽くんの瞳が、柔らかく細まる。


最早これは彼の代名詞とも言える特徴、とろけそうな言葉を素直に伝えてくるそれに、ため息が出た。



それでも変わらず、太陽くんは微笑んだまま。








「くぅーん…、」と、置いてけぼりにされることを悟ったらしい鳴き方をするほっぺが、足下に頭を擦り付けてくる。


そんなほっぺを愛おしそうに、安心させるようにひと撫でした太陽くんが。





「じゃあ、行こ。優雨さん。」





丁寧な強さで私の手を引き、歩きはじめた。

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