優雨と颯星

第19話

「優雨さん、晩ごはんどうするの?」


「つくるよ。今日は仕事もないし、のんびりできるから」


「何にします?俺、肉じゃがとか好き。」


「……じゃあ、肉じゃがにしよっかな。1人前。」




ぽかぽか陽気に包まれるアパートまでの道のりで、部屋に上がり込む+その後も居座る気まんまんな相手、肩を並べている太陽くんをじと目で見つめる。


正しく表せば、あり過ぎる身長差のため“見上げる”に近い体制なんだろうけれど、悔しいから認めたくない。




「とか言いながら、優雨さんはたくさんつくってくれるって、知ってる。そこに俺、つけこんでるんだもん。」


「………………」


「論破できちゃった?図星ついちゃった?」


「……うるさい。」




なんて、くだらない大人の意地にひとりモヤモヤしようが何を思おうが。


穏やかな表情で、普通なら隠す素直さをも分かりやすく伝えてくる太陽くんは、腰を曲げ顔を覗いてきたり。


らしくもなく、なんとなく、顔に熱が溜まる自分を認めている部分があったり。


ふらふらと左右に行ったり来たりすることもなく、お利口さんな足取りで進むほっぺが「わん!」同意するよう可愛く吠えてくれたりなんかして。





珍しく親しみのある口調で距離を縮めてくる太陽くんとの時間に、癒されていることを自覚していた。














今この瞬間に流れている時間を色に例えるなら、薄いオレンジやピンク、優しい愛らしさだけで染まっている筈だったのに。





「優雨、」


「(……なんで、)」


「…………久しぶり。」


「…………うん。」


「……つれないなぁ。」





突然に差し込んだ落ち着きある声により、たったの1秒前までが嘘みたいに殺伐とした色が周りを支配していく。





「元気?」


「………なんでいるの、颯星。」


「答えになってないよ、優雨。」


「(……颯星だって、そうじゃん。)」




住み慣れたアパート前に屈んだままの颯星は、青みがかった黒のスーツにシャツ、ネクタイと随分と大人の香りを漂わせていて。


7年前とは比にならないくらい、着こなし似合っているスーツとの相性が、どこか哀しく感じた。





「?どうも?」


「……こんにちは。」


「優雨、弟いたっけ?」


「弟じゃありませんよ、俺」




地面に足が縫いついたよう動けず立ち止まる私を、不思議そうに見上げてくるほっぺ。



その、後ろで。


太陽くんが来ている制服を上から下まで吟味するよう視線を動かし、余裕綽綽な態度で声をかける颯星への苛立ちが次第に募っていく。





初対面の相手だろうと歳上だろうと、引くことも怯むこともなく対応する太陽くんの腕に、しがみつきたかった。



そんな風に甘える権利も意味も、私は持っていないけれど。

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