第3話

呆気に取られて観察を続けていた私を、男がソファーに座らせる。すると、ドタバタと階段を降りる音が続き、リビングのドアが遠慮なく開かれた。








「響夜!何時だと思ってん、だ、よ……」


「………………」





キョウヤ、と怒りながら入ってきた栗色の男はポカーン、と。遅れて入ってきた銀髪の男はキョトン、と。それぞれに固まり、目を見開く。








「……っ響夜が誘拐犯にぃぃぃ!!!!」


「違う。うるせえ。拾っただけだ。」


「……それを世間一般で誘拐って言うんじゃないんですか?」





赤と白のストライプ柄、ユニークで派手なパジャマを着た栗色が頭を抱える。シンプルな黒のスウェットを着た銀髪がため息を吐く。


個性豊か過ぎる3人に、自分の境遇を一瞬だけ忘れていた。








「とにかく手当てしてやってくれ」


「手当て……おまっ!怪我までさせたのか!」


「俺じゃねえよ。元々だよ」


「ていうか拾ったって……どこでですか」


「そこの公園」


「猫じゃないんですから」


「見りゃ分かる」





手当て、と男に言われてはっとする。やっと男の行動が繋がって、胸の奥が熱くなった。


てきぱきと栗色が動く。手際よく、足の裏や腕、顔────見えるとこにある傷や痣を包帯で覆ってくれた。


ようやくはっきりと私を認識した3人は、傷を手当してくれながら、ふんぞり返るようハイチェアに座りながら、暖かい飲み物を用意してくれながら、悲痛に顔を歪めていた。








「キミ、何歳?何年生?」


「……もうすぐ、15。中3、です。」


「家、送ってくから教えてくれる?」


「………………」


「あ、そうだよね。個人情報だよね。どうしようか……そうだ!親御さんに連絡する?迎えきてもらおっか?」





何を勘違いしたのか、栗色が私の顔を優しく覗き込んだ。その大人具合が苦しくて、背中にかけられた男のロングコートの裾をぎゅっと掴む。








どうしよう。

帰りたくない。

帰れない。

言いたくない。

言えない。








でも、この大人たちは優しい。

私を助けてくれた。

誰かも分からないのに。

メリットもないのに。

価値もないのに。








瞼を伏せる。

大きく深呼吸をする。








言うだけ言ってみる?


また捨てられるだけ?

放り出されるだけ?

ひとりに、なるだけ?


それでも、言うだけ、言ってみる?








どうせもう、この世界には、私の居場所なんてないんだから。








顔を上げる。

ひとりひとりと、視線を交わす。


そうして私は、口を開いた。

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