第42話

「…………結局はその方、クリスマスに亡くなってしまったみたいです。極秘情報なのは、メンバー全員の希望だと。」


「………………」


「だから…………、」


「………………うん。」


「…………なこさん?」


「………………」


「…………へぇ。」


「………………」


「そっかぁ。へへ。うん。そうかそうか。」





だから、昨年は記念日どころか。

その時期から、デートもなにもかもが、おざなりだったのか。





でも、それはいい。

そんなことは、どうでもいい。


ヘでもない。

へっちゃら。








ひとつだけ。

哀しいのは、悔しいのは。





「……全く、知らなかったなぁ。」





レンさんの支えに、なれていなかったこと。

レンさんの励みに、選ばれていなかったこと。








「…………なこさん、」


「ふふ。だいじょぶ、だよ。にゃーあ。」





心配そうな視線を伸ばして、申し訳無さそうに肩をすぼめるにゃーあを、笑う。


小学生みたいな可愛らしい仕草に、微笑ましくなれた。











そういえば、昔。

まだ、レンさんとの初対面より少し前。


ソウさんとの共演が決まって調べたvegetablooseの情報。


忘れていたけど、思い出す。








田舎での4人だけ共同生活。

そこで出会った“大切な相手”





それは、べじたりあんの中では有名な女の人で。


テツさんが片想いしてた、だとか。

その人をモデルにした曲も多数ある、だとか。


べじるーにとって、本当の家族よりも。

大切な家族、なんだとか。








そんな相手が、亡くなった。


vegetablooseが心の拠り所にしていた彼女が、この世から消えてしまった。








その喪失感は、私には計り知れない。







『それでは、歌っていただきましょう。最新ベストアルバムの中からの、最新曲。』


『vegetablooseで“あしたは、晴れるといいな”』











四角い箱の中から、愛おしい相手がギターを奏でる。





たったの数分で終わった曲の中には、レンさんの想い。


ありったけの“大切な相手”への愛が、込められていた。

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