第37話
「……レンさん、酔ってますよね。」
「なんでこの歳でこの稼ぎで、外で缶ビール呑まなきゃいけないんだよ。惨めだろ。」
「自分が勝手にしたんでしょう」
「冷た。酷。なこ、最低。ばーか。」
「手に負えない……」
もう私、本当にレンさんがなんなのか分かんないよ。
気まぐれにこんなことされても、分かんないよ。
また期待して。
好きを無くせなくなって。
辛くなる、だけなのに。
いつもよりも冷静になれる思考のままに、レンさんに背を向けヒールを脱いだ。
「……なこ、」
「っ、」
そんな私の二の腕を掴み、強く引き寄せられたのは、レンさんの腕の中。
鼻を擽るレンさんの香りに、さっきまでの呆れが嘘のように消えていく。
代わりに、心拍数はこれ以上なく早さを極めていって。
「……無視すんな。」
「レン、さ、」
「……見捨てんな。」
「………………」
「……頼むから、」
“消えるな”
最後にそう、小さく呟くよう伝えてきたレンさんに顎を捕まれ唇を奪われた。
いつものレンさん、冷静沈着で。
でも、隠れサディストで。
それらとは別人のように、激しく、荒々しく。
「なこ、」
「っ……ん、」
「………………。」
「いた……っ、」
「………………、」
「ちょ……っ。レ、ンさ、」
微かに離れた隙に、呼ばれる名前に心臓が軋む。
唇から首筋、首元へと移動していくレンさんの熱情を受け止めよう、応えようと必死だった。
それでも、強く走る衝撃に飛び出してしまう小さな悲鳴。
弱々しい拒否が、今のレンさんに受け入れられることはない。
職業上、なるべくキスマークを避けていた仕事人間とは思えない愛撫。
レンさんは、私のコートを中途半端に脱がしワンピースをはだけさせたかと思えば。
容赦なく、鎖骨を噛んできた。
「レン、さ……っん、」
「………………」
無言のまま、舐められてきつく吸われて。
慰めた後に少しまた、噛まれて。
それは、まるで。
私を自分のモノだと印をつけるというよりも、自分が生きている証を刻むように。
もういなくなってしまった大切な誰かへの熱情を、ぶつけるように。
レンさんしか考えられない私の脳はもう、どろどろぐちゃぐちゃに、溶けていく。
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