レンさんは卑怯
第36話
🎸
結局、例の俳優さんには丁寧にお断りの連絡を入れて。
その後も、レンさんともvegetablooseの人たちとも会う偶然もなく。仕事は終わった。
そして、行きつけのイタリアン料理店にて深夜の天辺を超えるまでにゃーあと食べまくる。
まくりすぎて、帰りの車で若干にゃーあに怒られてしまったけれど。
自覚がどうの、プロ意識がどうの、と。
今更すぎる説教になんだか泣きそうになりながらも素直に頷き、自宅マンションへと辿り着く。
『……ひとりで眠れますか?』と、最後には菩薩のような優しさをくれたにゃーあを笑い飛ばすことで、ばっちり仕返しはしたけれど。
見送ったにゃーあの愛車が無事に目的地まで私の大切な相棒を包んでくれるよう祈りつつ、エントランスに入りエレベーターに乗り込んだ。
部屋があるフロア。
コツコツと大袈裟に鳴らすヒール音。
そして、私の家と繋がる扉の前まで足を運べば。
それこそドラマのワンシーンのよう、持っていた鞄を落としてしまう。
「…………遅。」
「…………なんで…?」
真冬の外。
玄関の前で屈み、無意識な上目遣いを披露してくるレンさんに驚いて。
何秒経っても、現状を把握することが出来なかった。
「なに。ずっと居たの?アイツと?」
「………………」
「肯定か浮気女。」
それどころか、聞いたことのない静かな怒声。
レンさんらしくない焦燥が読み取れる姿に、混乱は増していく。
「…………にゃーあとだよ。」
「………………」
「……ほんと、だよ?」
「………………」
「あの人には、きちんとお断りしたよ?」
それでも、レンさんだけには誤解されたくないという素直な心のままに。相手と同じ目線になるよう膝を曲げて、抱えてみた。
小さな子どもに言い聞かせるよう、柔らかく真実を告げていく。
何故かある周りの、中味の空いた缶ビールたちを側に落ちていたコンビニ袋に回収し立ち上がる。
それを左手。
口をへの字に曲げてまだまだ納得いかない様子のレンさんの腕を掴み、中へと放り込むよう突き放す。
そっちは右手で。
カードキーで開いた室内へ最後に収まるのが私という理不尽さを覚え、重いため息を吐いた。
「……合鍵、渡してるんだから、中で待ってればいいのに。」
「仕返し」
「仕返し?」
「なこ、ばかって言ってきたから。寒い中ひとり外で、なこのことばっか考えて不安になってやきもきしたら、なこ、後悔するかなって思って」
「………………」
「ばーか。ばーかばーかばーかばーか。」
レンさんは扉に寄りかかったまま。
靴も脱がず理不尽に絡んでくる。
これは相当飲んだね、レンさん。
馬鹿じゃないの。
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