第28話
3秒か、10秒か。
はたまた、もっともっと、長い間か。
「………………。」
「………………。」
分からない程、夢中に求めた後。
音にはのせずとも軽く乱れた息のまま、レンさんから離れる。
まだ身体は、レンさんの上に跨ったままに。
恐怖や緊張や苦しさや、負の感情がごちゃ混ぜになっているのは私だけで。
レンさんはもうとっくに、冷静さを取り戻している。
「…………で?終わり?」
「っ、」
「続きは?」
それがなんだかとっても、悔しい。
そしてなにより、悲しい。
余裕綽綽な態度で、私の腕を掴んできたレンさんが滲んで見える。
惨めで情けなくて、瞳は潤んだ。
「それ、演技?」
「………………」
「…………なこ。」
「………………違うよ。」
“演技”
その言葉をきっかけに、涙腺は崩壊する。
私が悪いのだけれど。
暴走して試そうとした私が悪いのだけれど。
やだ。
やだな。
やだやだ。
いつも、そうだった。
本気で傷ついてるのに。
哀しいのに。
悔しいのに。
涙を操れる演技力がある女に、弱み見せられても、とか。
言われてきた経験は、少なくない。
「………………最悪。」
レンさんだけには、言われたくなかった。
だから今まで、明るく天真爛漫な有須川なこで、いたのに。
その努力がぱあ、だ。
ぱぱぱのぱあ、だ。
レンさんのばか。
私も、ばか。
「……ごめん。嘘。」
「っ、」
「初めてヤキモチ妬いてくれてるなこ、弱ってるなこ、見れたから。嬉しくて。意地悪言った。ごめん。」
「…………許さない。」
「ごめんな。」
上半身を起こし、きつく抱きしめてくるレンさんにしがみつく。
言葉とは裏腹な行動が可笑しかったのか、レンさんの声には微かな明るさが含まれていて。
レンさんには一生、敵わない。
そう、更めて実感した。
「なこ」
「………………」
「なーこ、」
「………………」
「……レン、さん。」
「チョコ、溶けるよ。」
「うん」
「食べよ。」
「うん」
子どものよう、豪快に涙を拭い頷く。
そうして離れようとした私を、強く引き戻して。
「続きは、それからね。」
耳元で告げられたすぐそこに迫る未来に、身体中の熱があがった。気がした。
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