レンさんは手強い

第26話

🎸










『よかったねぇ、なこちゃん。』


「はい!もうもう!幸せです!」


『うん。もうもうねぇ、声で分かるよ?』





史上最強のクリスマスとなったあの日から、約2ヶ月。


通話の向こうで笑うソウさんに、遅らばせながらのご報告をさせてもらっていた。





と、いうよりも。レンさんから聞いたらしい『実はクリスマスからなこ、彼女』という唐突な暴露に驚き、思わずかけてしまったのだと言う。








前から思っていたけれど。vegetablooseの人たちって、プライベートでも仲良しだよね。もはや、家族のような。








『で?今日はもちろん?恋人たちのバレンタインですけど?』


「はい。ばっちり約束してます……というより、今インターホン鳴りました。」


『うん。聞こえた。ではでは、良いValentine day nightを♡』





烏滸がましいかもしれないけれど。

私もそのうち、そんな風に。


レンさんに家族と思ってもらえるような関係に、なっていけたらいいな。




なんて、ソウさんからの粋な切り際文句に苦笑しつつ考えていた。











「お邪魔します。」


「レンさん!どうぞどうぞ!」





数分もしない内に上がって来たレンさんに、いそいそとスリッパを並べ手招きする。


会えただけで嬉しくて嬉しくて、部屋の床がトランポリンならもうとっくに天井は崩壊してるだろうな。とか、アホすぎる考えを真面目にしてしまう程、私はレンさんに夢中だった。








「あ、レンさんこれ。買ったやつだけど。バレンタイン、です。」


「ん。ありがと。なこ。」


「はい。」





ソファーに座ったレンさんの隣で正座して、用意していたチョコレートを手渡す。


ぽんぽん、と頭を撫でてくれたレンさんとの関係は、怖くなるほど。順調で、優しく暖かいものだった。








色んな意味で。

このとき、までは。











「なこ、くれると思って。調子のって。いっしょに食べようと思って。お土産。珈琲豆にした。」


「わあ!ありがとうレンさん!さすがですね!」





レンさんの気遣いはいつもスマートで、どこかの皇族育ちなのかとたまに思うときがある。

今がまさに、そうだった。








キッチンに向かいマグカップを用意して、いつの日かにゃーあがプレゼントしてくれた専用の機械で豆を挽いていく。





部屋中が珈琲特有の大人な香りに包まれてきたとき。





ぴろりん、と。

可愛らしい通知音が、レンさんのスマホから放たれた。





何気なく観察するよう様子を伺えば、レンさんは不快そうに面倒そうに、眉間を寄せていて。








「(…………あの顔、知ってる。)」





微かにだけれど分かるその不快は、特定の象徴に当てられている気がした。

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